第十九話 ビフォア・ザ・■ン■■■リ■■(4/9)
……『プロ野球の現存する球団の中で一番弱いのはどこか?』と聞かれれば、ファンとしての贔屓目が絡んだり、何を以て"弱い"とするのかって解釈で答えが分かれるやろうけど、贔屓目抜きで、それでいて創設から今までの戦績を全部ひっくるめて考えるとすると、多分我らが横須賀EEGgシャークスが一番弱いやろうな。
相手方のバニーズも今絶賛暗黒時代やけど、それでもバニーズは元々戦前から続く関西の球団で、"強豪"と呼ばれた時期も繋げていくとかなり長い。球史全体を見て一番弱いってことは絶対にない。球史に名を残す名選手が山ほどおるとこやしな。
球団の強い時期ってのは、普通はその球団の看板選手達の質量と活躍時期が重なるもの。せやから優勝とか日本一とかになった年の近くは大体、優勝できずともAクラス入りはしてたりと、ある程度の強さの跡が残るもんや。ところがシャークスは大昔に初めて優勝して日本一になった年の前は6年連続で最下位、そして日本一の次の年も最下位という天変地異のような現象を引き起こした。俺が入団間もない頃も珍しくシャークスが強い時期やったんやが、日本一になって数年程度で最下位常連にまで落ちぶれてもうた。極端に強い時期がほんの少しと、それ以外は大体弱い時期……要するに、チームを盤石にできた実績がほとんどないちゅーことやな。
まぁ擁護するなら、他の球団と比べて大昔から経営元も本拠地もコロコロ変わってきたし、そういう経済事情やからドラフトがない大昔は圧倒的に不利やったし、ドラフトにしたって運に依存するところがある。そのせいで名選手がなかなか生まれないから、後の世代に継承する技術も質はともかく量が足りない。
それに、ウチのいるリーグ・コンサバーは良くも悪くもジェネラルズが中心やからな。今でこそ差が縮まってきとるが、リーグ全体の興行で言えばリーグ・プログレッサーよりも儲かっとるし、その恩恵に預かっとる部分は確かにあるが、同じ関東の球団ってのもあってジェネラルズの身勝手の皺寄せを特に喰らっとる部分もある。本拠地のある神奈川のファンも多くが東京のジェラルズに吸われてきたから、ウチの主なファン層は若いもんで、古くからのもんが少ない。
とにかく不利な部分が色々重なって、創設してから今もなおずっとチームの建て直しをしとる。きっとウチはそういう球団なんやろうと思う。俺ももしシャークスの一員にならんかったらその弱さの根幹を具体的に知る由もなかったやろうし、そういうとこも弱さの顕れなんかもしれんな。
せやから、もうそろそろ終わりにしたいもんや。横浜駅とかサグラダ・ファミリアみたいに創設からずっと未完成なままの現状を。
「よーし!ナイスボールや!」
「……わざわざ持ち上げることはないでしょう。こんなのは本調子ではありませんよ」
「相変わらず手厳しいのう、余儀」
「コーチとて、妃房がどういう投手かはよくご存知でしょう?」
「そらな。まぁアレや、通例ってやつや」
何せ去年、9球団競合で拾ったこの金の卵もとんでもないもん見せてくれたからな。まさしくこれからのシャークスにとっての"希望"と呼べる存在や。これで2位指名の数橋も大当たりなんやから、将来に期待せんほうが難しいくらいよ。
「妃房。監督からも聞いとると思うけど、今日は基本4回か5回や。1回延長するかは4回終わった時にお前が決めてええから、今日はペース配分とかよりもベストピッチングの感覚をしっかり掴むんやで」
「はい!今日も楽しんできます!」
うーん、この微妙にずれてるとこ……野球しとらん時はほんまにええ子なんやけどなぁ。
「4回も保たないのなら、綾瀬コーチが……いえ、エースが穴埋めしてくれますよね?」
「ははははは!お前も持ち上げてくれるのう、与儀。まぁ任せとけや」
それに、俺も"コーチ兼任"とは言え現役の立場を繋ぎ止めたんや。もう1回日本一目指したり200勝目指したり、やり残したことはいくらでもある。
綾瀬小次郎、高校卒業から現役27年目。そして現役年数・イコール・シャークス所属年数。もうすっかりオッサンやけど、『常勝軍団シャークス』という球団創設以来の大願を若いもんに全て委ねなアカンほど衰えとらんわ。




