第百七十六話 醜い過程(4/?)
「し、しかし……それはあくまで『できる』というだけの話で、『やってる』と確定したわけではないのだろう?」
「だからこそ、CODEの情報の取り扱いが適切であるか、その真相の究明が必要だと私は考えます。我が球団の話になりますが、今月頭の冬島の件についても、SNSの方のCODEが絡む話ですから」
「……そこは我々には関係ないのでは?」
「CODEを全く使っていない選手をこの帝国で探す方が困難かと思います。もっと言えば、ここにいらっしゃる皆様とてある程度ご利用されているのでは?」
「「「「「…………」」」」」
「我々がCODEについて疑うに至ったのは、冬島の件のすぐ後に加藤製薬からのリークがあったからです」
「「「「「……!!!」」」」」
プロジェクタに、加藤製薬の件についての資料を映し出す。念の為重要そうな情報はマスクして、要点だけ押さえられるように。それに補足するように、保田の爺様にしたのと同じような説明を私が。
こっちについてはCODEの内容だけでなく、いつメッセージのやりとりがあったか、アムリタ・メディカルが出願した特許がいつどんな内容で出たのかもわかる。ここにいる仕事のできるおじさんおばさん達なら、ちょっと見れば不自然であることがわかるはず。
「どでかい前科アリ、か……」
(まぁ梅谷ならやるな、それくらいは……)
(超大企業なのに毎年国税局と喧嘩してるようなとこだしなぁ……)
(元々デジタル関係で国に意見できてたし、中膝とか懇意な議員も現役の衆議院議員。政治的圧力も……)
「しかし、だからと言ってHIVEを今更手放すのは……」
(主に予算が……)
「梅谷さんを敵に回すのもなぁ……」
「というか真相究明って言っても、何をどうすれば……」
「『お前らが使ってるHIVE見せろ』って今の段階で言うのは……」
一応、『疑いはする』くらいまでは持っていけたわね。でも仕事のできるおじさんおばさん達だからこそ、カネが絡むことを簡単には決められないわよね。
「私なりに方法を考えてきました」
「「「「「……!」」」」」
私と梨木、アヴリルで考えて作り出した方法をここで発表する。
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「……あまり褒められたやり方ではないが……」
「ですが仮にやったとしても、それこそ『貴方がたには関係ないはずですが』で通せますね。逆に文句を言われれば、それはそれで口実になる……」
「結果が出れば、確定ではないにせよ、CODEの実態を明らかにする大義名分くらいにはできるか……」
「そして上手くいけば、今のヴァルチャーズの独走態勢も……」
「ただ、それこそ情報を握るのがヴァルチャーズからバニーズに代わるだけじゃ……」
「リコにとっちゃあんまりメリットねぇよなぁ」
「もう交流戦終わったし……」
全体的に見て、リプの球団が比較的乗り気、リコの球団が消極的って感じね。少なくともまだ『全会一致で賛同』って雰囲気じゃない。
「リコの皆様には確かに球団の戦力上のプラスはあまりないかと思います」
「……しかし、宣伝にはなるのう」
「「「「「!!!」」」」」
今まで沈黙を貫いてた保田の爺様がようやく一言。私が言いたかったことを簡潔に。
「リプの球団オーナーとしてこう言った発言をするのは少々憚られるところですが……我が帝国のプロ球界は、ジェネラルズ人気や約半世紀前の賭博事件など、様々な歴史的背景からリコが中心でリプが日陰者という時代が長く続きました。中立的なプロ野球ファンがリプの名誉のためにも、『人気のリコ、実力のリプ』という表現を生み出すに至るほどに」
「「「「「…………」」」」」
「しかし近年、交流戦が開始された頃くらいから状況は変わりました。リプの各球団が順調に観客動員数を伸ばし始め、ヴァルチャーズに至ってはジェネラルズやパンサーズとそう変わらないほどになりました。こうなった背景には、情報発信の手段が発展・多様化し、これまで『地元』が大きなウエイトを占めていた集客の手段が多様化したことももちろんあると思います。ですが、客観的事実として、交流戦やポストシーズンの戦績、国際試合への貢献度、平均球速などのデータ、日本人メジャーリーガーの比率や活躍具合など、様々な面で『実力のリプ』という表現に偽りがないことを証明してきたのも、世間の反応を見れば間違いなく要因の1つです」
別にリプを賞賛する意図も、リコをけなす意図もないけどね。
「もちろん、戦力という点では、ドラフトのシステム上、運も多く絡むので仕方のないところはあります。金銭という点も、帝国全体の経済成長が滞っている以上、優先順位というものがあると思います。ですが、現状のJPBはスポーツ速報やHIVEなど、リプの一球団が情報発信やデータ解析の部分を事実上掌握している状態……12球団の公平性が担保されていません。こういった状況が続くのは、リコのみならずリプにとっても権威的に大きな損失になり得ます。現実問題、日本の野球ファンの中には『日本のプロ野球よりメジャーを配信で』という層も少なからず存在しますし、そういった層に誹りを受けても仕方のない状況です。『日本は仮にも球団持ちの企業一つに依存しないとプロ野球も運営できない』、『そこまで貧しく落ちぶれた』と」
(JPB発足当初からジェネラルズに依存しまくってたけどね)
「……『脱CODE』を1つの宣伝文句にしよう、ということか」
「今のところは幾重選手がメジャーで活躍しているおかげもあって、プロ野球というコンテンツはどの球団も観客動員数が年々増加しているなど、良い状態ではあります。しかし、野球そのものの人気の低下に加えて少子高齢化。このまま何も手を打たずとも安泰であるというのは少々楽観的であると認識しております」
リコの球団オーナー達が考え込む。
(リプとの戦力差の原因は世間が言うようにDHの有無もあるだろう。だがレギュラーが実質1人増えるとなると予算が……だが、これ以上実力差を見せつけられることで客層をリプに奪られるのは……)
(実力のみならず、体制的にも敵側のリーグに主導権を握られている状態。CODEを切れば、『リコは現状を打破する気がある』という意思表示を世間にひとまずできる、か……)
(一応HIVEについては運用できるようになってきたし、他システムに切り替えてもどうにか……)
そして、リプの球団オーナー達も……
(ただでさえ『勝ちにいく』のが大前提である上に、『実力のリプ』というのを売り文句にしてる以上、結果的に無駄金になったとしても、設備投資とか、そういった振る舞いは最低でもせねばならない。たとえヴァルチャーズのような球団が同じリーグ内にいたとしても……)
(だからこそ、バニーズが提示する方法でヴァルチャーズの勢いを削ぐことができるのであれば、予算的にも申し分ない)
(ぶっちゃけ梅谷さんのやり方は気に入らねぇし、ヴァルチャーズファンにもデカい顔され続けるのもな……)
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