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868回敬遠された月出里逢  作者: 夜半野椿
第五章 ホンジ・スキーム
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第百七十六話 醜い過程(3/?)

******視点:三条菫子(さんじょうすみれこ)******


 6月20日、帝都某所。プロ野球をやらないことに定評のある月曜日だけど、下手をすれば数戦分もの勝敗が揺らぐかもしれない重要な集まり。


「「「「「…………」」」」」


 テレビやネットで観たこともある人間もチラホラ。今日はヴァルチャーズの梅谷(うめたに)オーナーを除く11球団のオーナーで内緒話。

 と言っても、参加者は11人ってわけじゃない。今日の議題の関係で、オーナー達は自分の球団のデジタル関係に強い人間も同伴させている。


(まさかこんなにも早く、こんなチャンスが訪れるとは……ほぼ全球団の要人の集うこの場に……)

(正直、今日来てない梅谷(ウメタニ)以外はよく知らんが……まぁ経営者としての雰囲気のある奴ばかりだな)


 私も梨木(なしき)とアヴリルを引き連れて。


「皆様、本日はお忙しい中お集まりいただき、誠にありがとうございます。今日の進行は私、三条菫子(さんじょうすみれこ)が務めさせていただきます。若輩者で不出来な部分もあるかと思いますが、どうかよろしくお願いいたします」

「それで、交流戦も明けてこんな中途半端な時期に我々を呼んだのは?」

「ヴァルチャーズの関係者だけは1人もいないようだが……?」

「それは当然です。本日皆様『だけ』お集まりいただいたのは、CODE(コード)グループが提供している『HIVE(ハイブ)』から皆様の球団の情報が抜き取られている可能性がある、というお話をするためですから」

「「「「「……!」」」」」

(へぇ……)


 半分くらいの面々は驚きを隠せない様子だけど、中には平然としている者も。

 特に目立つのはあそこにいるおばさん。シャークスの松木(まつき)オーナー。驚いて目を見開くどころか、逆に目を閉じて薄く笑みを浮かべる始末。そりゃそうよね。帝国屈指のIT企業の会長、そしてシャークスはウチと同じく最初から『HIVE(ハイブ)』に手を出さなかったとこなんだから。


「皆様、何か心当たりはございませんか?『HIVE(ハイブ)』が導入され4年目となりますが……」

「まぁ確かに、今年のヴァルチャーズの戦績から言ったら疑わしいところがあるが……」

「おい、何か心当たりはあるか?」

「ええっと、少々お待ちください……」


 それぞれの球団が事実確認とかで場がざわつく中で……


「……ある」


 その一言で、場が静まる。声を上げたのはエペタムズの飯場(はんば)オーナー。


「『HIVE(ハイブ)』が導入された2019年。ちょうど君のとこの月出里(すだち)が一軍に出だした頃だったな?当時の彼女はシフトに苦しんでたはず……」

「ええ、その通りです。私が記憶してる限りではエペタムズが最初に仕掛けてきたはずです」

「アレを見つけ出したデータ班には当時ボーナスを振る舞ってやったものだ。いずれ他球団も真似るとわかってたがな。だからその時は特に疑問に思わなかったが……アレ以来、ウチが他球団の主力選手の対策を立てるたびにいの一番に真似してくるのは常にヴァルチャーズだ。さすがに偶然がすぎる」

「……それでも、偶然という線は?」

「いや、『HIVE(ハイブ)』は一旦収集したデータを集約してるから……」

「そもそも『HIVE(ハイブ)』はCODE(コード)謹製ではあるが、データの管理は外部に委託しているはず……」

「確かに、直接的に見るのは不可能ですね。"一般ユーザ"なら」

「「「「「……?」」」」」

「その辺りについては、我が球団の担当者の方からご説明させていただきます」


 アヴリルがノートパソコンをプロジェクタに繋いで、梨木がマイクの準備を始める。


天王寺三条(てんのうじさんじょう)バニーズ、デジタル戦略部部長の梨木と申します。三条オーナーに代わって私の方から、『HIVE』に関する懸念点についてご説明させていただこうと思います」


 梨木が話しつつ、アヴリルはスライドを操作する。


「まず『HIVE』について、現状の情報を整理いたします。『HIVE』はご存知の通り、収集したデータを一括で管理しますが、JPBが公式に公開することを義務付けている試合中のスタッツなどを除いて、自球団で保有する情報は『基本的に』他のユーザには共有されません。この切り分けを実現しているのは2つのユーザロールです」

「『ユーザロール』?」

「『役割』のことです。『権限』……そのユーザがそのシステムでできることを集約したものですね。『HIVE』に限らず、この手のシステムには大きく分けて2つのユーザーロール……"一般ユーザ"と"管理ユーザ"というものがあります。情報の保護のためにもほとんどのユーザが"一般ユーザ"となりますが、みんながみんな"一般ユーザ"だと、それはそれで重要情報が全く取り扱えなくなってしまいます。だから、そのシステムの開発者や主管など、限定したユーザにだけ、あらゆる情報にアクセスできる"管理ユーザ"というものが割り当てられます。皆様が運用されている『HIVE』のユーザロールは"一般ユーザ"ですね?」

「まぁ、常識的に考えて……」

「マニュアルにも規約にもそう書かれてるし……」

「ですが……ヴァルチャーズが運用している『HIVE』が"管理ユーザ"ではない保証はありませんよね?」

「「「「「……!!!」」」」」


 そう。そこが落とし穴。

 『HIVE』とはおそらく『集合意識(ハイブマインド)』が名前の由来。でも聞いて呆れるネーミングよね。『知識の共有』を匂わせておいて、実際やってることは『知識の占有』。


「「「「「…………」」」」」


 ま……別にこの場にいる人間みんながみんなその可能性を考えもしなかった阿呆ではないはず。きっと『流石にそんなことをするはずがない』って思いだった者もいるはず。何だかんだでまず他人を信じちゃうっていう、日本人の良いところであり悪いところよね。

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