第百七十六話 醜い過程(1/?)
******視点:三条菫子******
6月14日。天王寺のとある貸し会議室。
「「「…………」」」
向かいの席には、冬島の一件での加害者サイド。ようやく足取りを掴んだ曽根崎初音と案西社長、それから2人が雇った女性弁護士の3人。
こちらの席には冬島と、私達で用意した男性弁護士。それと、婚姻関係の協議には直接関わらないけど、私と三河さんも参加。
冬島は相変わらず身だしなみに乱れがあるけど、今日に関しては、目に少しの生気がある。そして頻繁に曽根崎の方を見てる。『まだ希望を捨てきれてないから』、かしらね……?
「では、協議に入る前に当職からそちら側へ、CODEの文面について確認をさせていただいてもよろしいでしょうか?」
約束通り、まずは私と三河さんの用から。もうすでに週刊誌のでっち上げじゃないこと前提で動いてるけど、念のために曽根崎と案西のCODEの文面も事実であることの確認。
「「…………」」
「冬島選手への行いに関してはともかく、そちら側にとって極めて不利な情報が流出したという点ではこちら側と同様に被害者であると認識しております。文福へリークした何者かに対して法的処置を執るなどするためにも、流出の原因を特定することは、そちらの名誉を回復する上でもメリットがあると存じます」
「……初音、案西さん」
「チッ……」
向こう側の女性弁護士に促され、観念したようにスマホを出す曽根崎と案西。あの女性弁護士、曽根崎と知り合いなのかしら……?
「失礼」
三河さんが文面を確認すると……
「……間違いないですね。こちらについても、文福の記事と全く同一です」
なら、後は誰がリークしたかさえ特定できれば、ってとこね。それに、スクリーンショットや写真もなく、文面『だけ』が完全に流れたことで、CODEに対しては最低限、セキュリティ的な部分の責任を追及することはできるはず。
「さて……ではこちらの協議を始めさせていただきたいと思います。記録を取らせていただいても?」
「どうぞ。こちらも取ります」
双方の弁護士がテーブルにICレコーダーを置いて、冬島側の弁護士が場を進行し始める。
「まず事実関係の整理ですが……6月7日の文福の記事を確認したところ、曽根崎さんは冬島さんとの交際・結婚以前から案西さんとの関係があったようですが、こちらは間違いございませんか?」
「「…………」」
「……文福にはCODEのスクリーンショットなどはありませんでしたが、密会写真は掲載されておりましたが?」
「はい、間違いないです」
「……!」
今までずっと黙ってた曽根崎が肯定して、冬島は目を伏せる。でも、またすぐに顔を上げる。
「今妊娠中のお子様についても、冬島さんの実子では無いかのような記述がありましたが、こちらについても?」
「…………」
「な……なぁ、初音。あんなん嘘やんな?他の男と付き合ってたんはともかく……その子の名前決めてって、オレに頼んだやん?『オレに似てもええ』って言ってくれたやん?『いつか3人で公園とか遊園地とか行きたい』言うてたやん?なぁ……?」
「…………」
冬島が一縷の望みに賭けるように、責めるでもなく優しく諭すように曽根崎に問いかける。
「……ふぅーっ……」
「……?」
曽根崎は目を伏せたまま静かに一息吐いて、何か覚悟を決めたような表情を一瞬だけ見せる。
「キッショ……まだ勘違いしてるん?」
「「「「……!?」」」」
普段はどちらかと言うとおっとりとした印象のある曽根崎が、本気の嫌悪を示すかのように急に顔を歪めて毒づく。
「ちょっと同情したフリして涙流したくらいでコロっと落ちてなぁ……アホなん?ジブンみたいなキモデブにうちがほんまになびくと思ったん?のぼせ上がっとるんちゃうで?身の程わきまえろや?『稼ぎ』以外に価値ある思ってるん?」
「ちょ、ちょっと初音……!」
女性弁護士が慌てて止めに入るけど……
「うちみたいな綺麗なアイドルお嫁さんにして、粗末なもん突っ込んでヘコヘコできて、それで十分ええ気分になれたやろ?なら別に、ちょっと父親が違うくらい別にええやん?なぁ?」
「……だよなァ。テメェみてぇな雑魚オスでこさえたガキなんざ生まれた時点でハードモード確定。世の中にとってもどうせ何も役に立ちゃしねェ。大人しくカネだけ出して俺様のガキ養ってりゃ良かったのになァ?」
曽根崎は別に案西に促したわけじゃないのに、案西が便乗して余計なことを付け足して……
「……ッ!!!テメェ!テメェェェェェッ!!」
「落ち着いてください冬島さん!!!」
完全にブチギレた冬島が案西に殴り掛かろうとするのを、主に男性弁護士が、そして私と三河さんも加勢して必死に止める。
「良いんだぜ別にィ?俺も男だから気持ちはわかるしよォ?プロ野球選手様がか弱い一般人に暴力振るってもしょうがねぇよなァ?なァ?」
……いくら情報流出については被害者と言っても、流出した内容が内容。経営者としての社会的信用を大きく損ねるのは免れない。そして、もうあの記事の時点で冬島に対して侮辱しきってる。だからせめて冬島の方の有責を少しでも増やして……ってとこでしょうね。
仕事はできるみたいだし、ぶっちゃけ顔は割と好みだけど……男としてはゴミと言う他ないわね、コイツは。
「……初音」
「あ?」
ようやく冷静になった冬島が、曽根崎の方を向く。
「その子供産むんか?」
「……ハッ。あったり前やん?どっちみちもう堕ろせへんやろ?」
「ならもうお前とは今日限りや」
「プクククッ……wほんまにまだ希望あるって思ってたんやな?」
「……せめてその子のことがなかったら、許すのも考えてた」
「そこまでしてうちに縋り付きたかったんやなぁ……非モテのキモデブくん必死すぎやろw」
「黙れ……!」
そして曽根崎も……わざとらしいくらいにゴミ女。ゴミ同士お似合いだけど、どのみち子供は不幸ね。親が揃いも揃ってこんなんじゃ……
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