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868回敬遠された月出里逢  作者: 夜半野椿
第五章 ホンジ・スキーム
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第百七十四話 真実(4/4)

******視点:冬島幸貴(ふゆしまこうき)******


「…………」

「お、お疲れ……」

「はい……」


 試合後のロッカールーム。さっさと着替えを終えて、球場を出る。昼頃のあったことがことやから、いつもより身バレ防止はしっかりとして。

 今日の試合は散々な結果。でも今はそんなことよりもあの記事。昔から暗記する系の科目は得意やったけど、今でも読み返すまでもなく、あの記事に書かれてたことを鮮明に思い出せてまう。

 ……何て言うか、帰りたない。オレ自身が何をするかわからんってのよりも、これ以上嫌な『真実』を知りたないから。


「……ん?」


 フラフラと帰り道を歩いてると、一軒のコンビニ。いつもまっすぐ帰ってるし、買い物行くならスーパー利用するから入ったことないその店。ふと見ると、店の前でスマホを片手に持ちながらワイワイと話す若い女が2人。


「なぁなぁ、あの文福の記事見た!?あのUMD33のやつ!」

「見た見た。マジエグいよねぇ、あのイケメン社長。でもまぁ、例のプロ野球選手くんも良かったやん。写真見た限り、プロ野球選手でもなきゃそもそもアイドルと結婚なんかできそうもなかった感じやし」


「……!」


 夜の街の中で、女の甲高い声は嫌らしいまでに響いて、はっきりと聞こえてまう。


「まぁでも初音(はつね)っちも上手くやったもんやで。財布はプロ野球選手くんでも、女としちゃ子供作るんならねぇ……」

「やっぱ女はどんだけ優秀なオスで遺伝子残せるか、どんだけオスに尽くさせるかやんな。あの月出里逢(すだちあい)とかいう奴も見た目でチヤホヤされてるけど、男と同じ土俵で稼いでる時点で女としちゃ雑魚やわあんなん。"名誉男性"とかそういうやつ?」

「今は『男も女も共稼ぎ家事折半当たり前』言うても、逆にそれ利用して男に面倒押し付けるくらいやないとな」

「……あ、『仕事』入ったわ」

「なんぼ?」

「ホ別ゴ有で5。いつものお得意さんや」

「その人、奥さんと子供おるんちゃうかった?」

「そんだけうちに価値あるってことですからwwwww」

「ほなうちは駅ん近くで立っとくわ」

「いやぁ、やっぱ稼ぐならこれやんなぁwww」

「月出里逢とかってのはぎょうさん稼いでも税金もぎょうさん取られてるんやろなぁ。世の中に貢献して良い気になってるんかもしれんけど」

「その辺上手くやれんかったらやっぱ雑魚やんなwww」


「…………」


 そう言って、2人の女は駅の方へ歩いていった。そいつらとすれ違う時にバレへんようにしつつコンビニの中へ。


「っしゃいやせー」


 入ってすぐに雑誌のコーナーへ。雑誌は全部封がしてあって、中が読めへんようになってる。そんなとこに時代を感じつつも、文福を手に取る。表紙には初音の名前と写真があって、オンライン版と同じ内容の記事が書かれてることが想像できる。

 せやけど、ほんまこの手の週刊誌は、何と言うか世間を騒がせたもん勝ちみたいな煽り文だらけやな。ブルーリボン付けた政治家が某北の国の女をあてがわれたとか、その手の界隈にとって『そうあれかし』って思いたくなるようなもんとか……


「……!」


 ……そうか。そうやんな。考えてみたら、あの記事がガセな可能性もあるやん……オレのCODEの内容も確かに晒されてたけど、誰がタレ込んだかとかは書いてへんかったし、他の部分はでっち上げかもしれへんやん。


「袋入れますかー?」

「あ、お願いします……」


 スイーツのコーナーで、プリンを2つ。ずいぶん安っぽいけど、手ぶらで帰るよりはな。


「ありがとうございましたー」


 そうやんな。初音があんなことするわけないやんな。オレの痛みで泣いてくれた、あの優しい初音があんなこと……仮にあの女2人が女にとっての"当たり前"やとしても、初音は"例外"やんな?

 今日やって起きたら当たり前の朝やったんや。帰ったら当たり前の夜に決まってるやん。ちょっと嫌なことがあったのは、お互いに甘いもん食べて忘れたらええねん。


「…………」


 そう信じて家に帰ったけど、明かりはついてなくて。もう寝てるんかと思って寝室行ってももぬけの空で。

 洗面所に2本並んだ歯ブラシとか、2人で選んだ家具とかはそっくりそのまま。初音だけが、家におらへんかった。


「……それが初音の『答え』なんか?」


 『今ここにおらへん』。それが『答え』なんか……?


 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・


******視点:月出里逢(すだちあい)******


 試合が終わって、優輝(ゆうき)の部屋。優輝はまだ学校から帰ってなくてあたし1人。

 まぁどのみち、今はそんな気分じゃないけどね。


「もしもし、すみちゃん」

(あい)……何だか久しぶりね、こうやって電話するのは」

「今大丈夫?」

「ええ。お察しの通り、午後はてんてこ舞いだったけどね」

「……冬島(ふゆしま)さんのこと、やっぱりすみちゃんは知ってたの?」

「もちろん。冬島選手からきちんと報告はもらってたわ。相手が相手だから、世間に公表するタイミングを計りかねてたけど」

「やっぱり事実、なのかな?火織(かおり)さんの時みたいに……」

「……その辺も含めて、明日から色々調べようと思うわ。記事の信憑性はもちろん、事実だとしたら、『誰が』『どうやって』リークしたのかもね」

「前の財前(ざいぜん)さんみたいに?」

「そうね、身内や元関係者の可能性もあるわね。ありがと。その辺も当たってみるわ」


 ……3年前の桜井(ドブス)みたいにね。ほんと、めんどくさいことしてくれて。あたし達には黙って野球だけさせてほしいもんだよ、全く。

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