第百七十四話 真実(3/?)
******視点:徳田火織******
「…………」
幸貴くんは目を見開いたまま震える手で画面をスクロールし続ける。やがて手が止まって、読み終えたのか、顔を上げてアタシの方を見る。けどアタシには何もかけられる言葉がなくて、顔を伏せて目を逸らす。
「!!!」
幸貴くんの手が緩んで、持ってたスマホが落ちるのを咄嗟に受け止める。何となくこうなることはわかってたしね。アタシもそうだったから。約束通り、わざと叩き割ろうとしたわけでもないし、責めるつもりもない。
だから、こんなことがあっても何もできないアタシを許してねって。
「冬島くん……」
その場に力無くへたり込む幸貴くんに、伊達さんが声をかける。
「今日はちょっと休むかい?代わりに有川くんか新穂くんに出てもらって……」
(例の記事を見た時点で、こうなるのは何となくわかってたしね……)
「……いえ、大丈夫です。出させてください」
「だ、大丈夫なのかい?何なら今日は家に帰って……」
「今家に帰ったら、オレ何するかわかりませんから。今はむしろ試合のことだけ考えさせてください」
「「……!!!」」
いつも冷静な幸貴くんの目がこれでもかってくらい血走ってて……本当に放っといたら何をするかわかったもんじゃない表情。
「……わかった。でもくれぐれも無理はしないようにね?」
「はい」
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そして、もうすぐ試合開始って頃。観客席が埋まっていくけど、バニーズファンもペンギンズファンも、気にしてるのは幸貴くんだってのがグラウンドからでもはっきりとわかる。
「な、なぁ?見たかあの記事……」
「芸能界とか金持ちの世界って怖ぇよなぁ……」
「何でよりによってウチの正捕手やねん……」
「UMD33推しやけど、あれは流石に冬島責める気になれへんわ……」
「やっぱ女って……」
「おいおい、あれが例の冬島だろ?試合出て大丈夫なのかよ……?」
「そりゃ昨日グラスラ打った奴だけど、流石に今日は休ませた方が良いんじゃね……?」
「ウチも他人事じゃねーよなぁ。ホームが帝都で芸能関係の人間と絡む機会多いし……」
「ああいうできる男も、結局はキ■タマで動いてるってことなのかしらねぇ?」
「ってかあのCODEのメッセージ、どこから流出したんだ?」
「…………」
それでも幸貴くんはいつも通り、試合前の投球練習に付き合ってる……
ううん、多分『いつも通り』でいようと振る舞ってるだけ。
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「ストライク!バッターアウト!!」
「三球三振ッ!最後も落としてきました!」
「さっきと違ってはっきりとしたボール球だったんですけどねぇ……」
幸貴くんの第1打席は全くよろしくない内容の三振。でも、このくらいは調子の良い時でもなくはないこと。
「!!!ああっと!キャッチャー後逸!!」
「「「「「ぎゃあああああ!!!」」」」」
「セーフ!」
「この間に三塁ランナーホームイン!3-3!ペンギンズ、まさかのバッテリーエラーで同点に追いつきました!」
もちろん、あっくんのスプリットでも簡単に止められる幸貴くんであっても、パスボールくらいはたまにする。でも今のは何でもないただのまっすぐ。しかもサインミスって感じでもない。普段じゃ絶対にありえないミス。
「バニーズ、選手の交代をお知らせします。4番、冬島に代わりまして、新穂。4番代打、新穂。背番号44」
「ここで交代です!冬島、ここで代打を送られました!」
「まぁ3三振でバッテリーミス2つですからねぇ……」
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「これはショート捕って……6……」
「アウト!」
「4……」
「アウト!」
「3!ダブルプレーで試合終了!6-3!ペンギンズ、最終回にピンチを迎えたものの、どうにか逃げ切りました!これでカード1勝1敗!、イーブンとなりました!」
「…………」
最後に逢ちゃんとアタシが出てチャンスメイクしたけど……幸貴くんほどでないにしても、リリィちゃんも今日正直かなり悪い。
まぁ今日に関しては『ペンギンズの勢いもあるから』ってのもあると思うけど、今日のこれがひょっとしたら……
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