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868回敬遠された月出里逢  作者: 夜半野椿
第五章 ホンジ・スキーム
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第百七十四話 真実(1/?)

******視点:冬島幸貴(ふゆしまこうき)******


「おはよう、幸貴(こうき)くん」

「ん……」


 6月8日。今日もナイターで試合。朝のちょっと遅めの時間に、初音(はつね)に起こされる。


「トーストでええやんな?」

「おう。ありがとな」


 食卓に着いて、ニュースを観ながらトーストを(かじ)る。オレに限らず、日本のどこにでもありふれた光景。


「初音、ちょっとだけ尻どけてな」

「うん。ごめんな、幸貴くん。今日も試合やのに」


 ナイター言うても、練習は昼頃から始まる。出発前に部屋の片付けをしたり、布団を干したり。独身の頃はついでにスマホいじってエゴサとかしてたけど、ここ最近全然やってへんな。


「ほんなら、今日も頑張ってな。うちの"ヒーロー"くん」

「おう。行ってくるで」


 玄関を出る前に、初音とキスして、初音の腹を撫でる。ほんまに何でもない、今となってはいつもと変わらない1日の始まり。


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 ホーム球場……サンジョーフィールドはマンションの近く。電車に乗るまでもなくいつも通り徒歩で向かう。


「……あ」


 しまった、スマホ家に忘れてもうた。まぁええか。どうせ試合中は観れへんのやし。


「おはよーっす」


 球場に着いてロッカールームに入ると、もう他の選手が何人か着いてて着替え済み。


「「「「「…………」」」」」


 やけど、いつもよりやけに静か。


「……?どないしたんですか?」

「「「「「!!!」」」」」


 全員がオレの顔を見て、驚いた顔をする。


「ふ、冬島(ふゆしま)……その……大丈夫なのか?」


 金剛(こんごう)さんがなぜか恐る恐るでオレに話しかけてくる。


「?何がですか……?」

「!?い、いや……何でもない……」

(知らないならその方が良いか……)

「……?敷島(しきしま)さん、何かあったんですか?」

「え、えっと……ははは……」


 今日先発でバッテリーを組む敷島さんにもなぜか避けられる。何なんや?全く……


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******視点:徳田火織(とくだかおり)******


 試合前、女子用のロッカールーム。


「「「「「…………」」」」」


 いつもなら女の子同士で甘酸っぱい話をしたり、時には真面目に野球の話をしたりするんだけど、ついさっきここでみんなで『あの件』を知ってしまって、空気がやたら重い。


「…………」


 リリィちゃんに至っては着替えてる途中だってのに、ソファに座って顔を覆って(うつむ)いてる。


「ッ……!ああああああああああ!!!」

「「「「「!!!」」」」」


 と思いきや、リリィちゃんが急に立ち上がって、叫びながらソファをガンガンと蹴る。


「あのクソ女が!あのクソ女が!!」

「ちょっ!落ち着いてくださいリリィさん!」

「そうだよリリィちゃん!一旦落ち着いて!ね!?」


 (あい)ちゃん達と一緒にリリィちゃんを力づくで止めつつなだめる。

 ……やっぱりリリィちゃん、色々知ってたっぽいね。昨日何となくそんな気がしてたけど。


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 あんなことがあったとしても、試合は約束通り始まるし、練習だって時間が決まってる。いいかげんにグラウンドの方へ出てみると……


「おっ、女子組遅かったやん。珍しいな」

「え……?」


 先にグラウンドに出てた幸貴くんがあっけらかんとした様子で、アタシ達に話しかけてくる。もしかして幸貴くん、まだ知らない……?


「…………」

「……やっぱ何かあったんやな」


 でも、リリィちゃんの様子を見たことで、幸貴くんも何かを察したみたいで。


火織(かおり)。男連中に聞いても何も教えてくれへんねん。多分オレに関する何かやってのはわかるんやけど、今日ちょっとスマホ忘れてもうてな……教えてくれへんか?」

「え、えっと……」


 言いづらい……単純に幸貴くんのことを思っても、今日の試合のことを考えても……


「このままやと気になって練習に集中できひん。火織いっつも練習の時はスマホ持ってきてるやろ?」


 ……ま、いずれ絶対わかることだけどね。アタシも似たようなこと経験したし。だからこそ、できるだけ黙っておきたいけど……


「幸貴くん」

「ん?」

「冷静でいられるって約束できる?」

「まぁ、お前のスマホ叩き割ったりはせんわ」

「……わかった」


 今まさに困ってる友達を放ってはおけないよね。他人(ひと)の目のある今なら逆に良い機会かもしれないし。

 ……それに、あんな真実がわかったとしても、子供を産んだアタシとしては、やっぱり……


「これ……」

「……!!!」


 スマホのブラウザを開いて、さっきのページを表示した状態で幸貴くんに渡す。幸貴くんはそれを受け取ったほんの少し後、目を見開く。そりゃそうだよね。目を覆いたくなるような話でも、そうなっちゃうよね。アタシと同じで。


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