第百七十三話 至福(7/?)
******視点:月出里逢******
「5回の裏、バニーズの攻撃。9番センター、秋崎。背番号5」
「1-1、同点のままゲームが続きます。この回の先頭打者は秋崎。第1打席でツーベースを放ち、月出里の先制打をお膳立てしました」
9番の佳子ちゃんが2打席続けて先頭打者になったということは、それだけ8番辺りが振るってないということ。黒潮くんもちょっと壁にぶつかったっぽいね……なんて、プロとして先輩ぶってみる。
「打ち上げた!しかしこれはショート見上げて……」
「アウト!」
「捕りました!まずはワンナウト!」
「ちょっと淡白すぎんよー」
「次ちょうちょやで……」
「せっかく脚あるのにこういうのがなぁ……」
むしろ同点なんだから、あれはあれで間違ってないと思う。向こうだって先頭だからストライク先行でいきたいはずだし、積極的に打つのは理に適ってる。その上でフライ打ちを意識してれば、ああいうのはしょうがない。
それに、『脚が速い』って言ったって、ソロホームランを打っても、塁に出て後続の人のバントなりタイムリーなりでホームを踏んでも、1点は1点ってね。
「1番サード、月出里。背番号25」
もちろん、あたしも高めに来てくれたら一発狙いにいくんだけど……
「ボール!フォアボール!!」
1番打者としてとりあえず最優先は『アウトにならないこと』。
「選びました!ワンナウト一塁!月出里、今日2つ目のフォアボール!」
「マルチ散歩」
「6割塁に出られるということは、10回に6回塁に出られるということなんです。だからこそ、出塁率6割なんだと思う」
「2番セカンド、徳田。背番号1」
別にあたしが無理なんかしなくても、後の人が打ってくれるんだし。
「一塁二塁強烈!ライト前!」
「セーフ!」
「一塁ランナーは二塁ストップ!」
(うーん、アタシのバットも乗ってきたね♪)
流石にこれは打球が速すぎて三塁にはいけない。でもまぁ無理するところでもない。
「3番指名打者、オクスプリング。背番号54」
(せっかく脚のある2人が出てるんだし、ここは……)
伊達さんからエンドランのサイン。確かにまたゲッツーとかはいただけない。
「ランナー同時にスタート!打ってショート横強烈……いやショートよく捕った!」
ほんと上手いね、あの赤尾くんって子。でもあの体勢なら……
(アピールチャンス!)
「そのまま三塁へ!」
「セーフ!」
(!!しまった……)
「記録はショートのフィルダースチョイス!」
「うーん、少し欲張ってしまいましたねぇ」
やっぱりね。流石に無理があるよね。三塁まで無理にいかなかったのが逆に良かった。
「4番キャッチャー、冬島。背番号8」
「これでワンナウト満塁!勝ち越しの絶好のチャンスで主砲・冬島に打順が回ってきました!」
確か冬島さんって今年9本だったよね?あたしより1本多いから。こういう時に2桁到達……なんて、流石に話ができすぎかな?
「!!!これは……センター下がって……」
「「「「「え……?」」」」」
「は……入りましたホームラン!冬島、自身初!第10号!勝ち越し!!満塁ホームランッッッ!!!」
「「「「「うおおおおお!!!」」」」」
いや本当に打つのかよ。良いことだけど。
「今ホームイン!5-1!!」
「いよっ、"主砲"!」
「おいおい、打点独り占めかよ!」
「最高だったよ冬島くん!」
一緒にベンチに戻って、大手柄の冬島さんのついでに祝福を受ける。
「5番ライト、松村。背番号4」
「さぁ、なおも攻撃が続きます。ワンナウトランナーなし。打席には松村。今日は強い打球を打てていますが、2打席続けて好守に阻まれてしまっております」
「まぁマッツはこんな感じよな」
「運悪い時はとことんなぁ……」
「しゃーない。身体はでかくてもアヘ単はアヘ単や」
松村さんなら金剛さんの一発に期待して、かなぁ?
(松村なら高めでも良いか。とにかくストライクを……)
(そう。自己満足のヒットばかり狙っても、肝心な時に敵の良い守備に阻まれたら無意味。ましてや今日は5番。もうワンナウトで、ここから先は下位打線に向かう。ただ、次の金剛さんの一発を期待して塁に出るのも悪い考えではないと思いますし、きっと周りは私に対して、そういう印象があるはずです。だからこそ……!)
「!!引っ張って!これは……」
「え……?」
まさか……
(たまにはこういうのを狙えなきゃ、私はきっとこれから先も一軍半でしょうね)
「入りましたホームラン!2者連続!松村、第2号!」
「「「「「うおおおおお!!!」」」」」
「今ホームイン!6-1!バニーズ、何とこの回5点目!」
「何やこの厨パァ!」
「ちょっと打線強すぎんよー(ご満悦)」
「ナイバッチです!」
「ありがとうございます!」
……まぁでも、クリーンナップがこうやって頼れるのはあたしにとっても良いことだよね。今年は率狙いだし、後の人がちゃんと打ってくれるなら、あたしのとこで点を狙う必要もない。
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