第百七十三話 至福(5/?)
「3回の裏、バニーズの攻撃。9番センター、秋崎。背番号5」
「0-0。投手戦が続く中、バニーズ、3回の攻撃はラストバッターから始まります。右打席にプロ5年目の秋崎佳子。昨シーズンは119試合に出場し、規定打席にはギリギリ届かなかったものの、2桁本塁打と抜群の外野守備でチームの優勝に貢献。今シーズンは1桁台の背番号を背負い、開幕スタメンも勝ち取りましたが、打撃不調で早々に降格。今日オクスプリングと共に久々の公式戦出場となります」
「せっかくレギュラー定着したと思ったんやけどなぁ……」
「まぁしゃーない。元々波のあるタイプやし」
「波打つおっぱい……?」
十握のコンディション不調でたまたま一緒に一軍に上がっただけで、秋崎は普通にコーチからGOサインをもらっての昇格。多分もう心配ないやろ。
「ストライーク!」
「外高め、変化球が決まりました!」
(……慌てない。積極的に打つのは良いけど、狙ってない球は追い込まれるまで捨てる覚悟で。閑さんに教えられたこと……)
「ボール!」
「ボール!」
(こんな感じで、向こうのピッチャーは特別コントロールがビタビタなわけじゃない。たとえ私の狙い球や狙いのコースがバッテリーに読まれたとしても、人間のやることだから、そこに来ない確率を完全な0%にすることは絶対にできない)
「!!引っ張って……」
「ファール!」
「これはポール横、切れましたファール!」
「「「「「惜しい……!」」」」」
なかなか冷静にやれてるやん。追い込まれはしたけど、別に消極的なわけやない。振るべきところでちゃんと振れとる。
(『ほんのわずかに遅れていれば』とか、そんなことは考えない。ファールになった以上、打ち損じは打ち損じ。そして、どんなバッターでも打ち損じは必ずするし、逆に打ち損じが良い結果になることだってある)
「追い込んで、第5球……!」
(!!ヤベ……!)
(真ん中!)
「また引っ張った!今度は左中間長打コース!!」
「「「「「おおおおおおお!!!」」」」」
「セーフ!」
「スタンディングダブル!秋崎、オクスプリングに続き昇格1打席目から早速結果を出しました!ノーアウト二塁!」
真ん中の少し低め。今時の打ち上げたがりが大好きなとこ。自分が打ちたい球をブレずに待つ。調子上がってるな。
「1番サード、月出里。背番号25」
「同級生の秋崎がチャンスメイクして打席には月出里。第1打席はフォアボール。得点圏ですがここは後の打順に繋ぐか、それともここで先制を決めるか……」
一応、一塁は空いてるけど……
「ボール!」
(初球は際どいコース。決まっていればストライク先行できたし、ボールであっても『最悪歩かせ』の方向を匂わせられる。ここで……)
(入れてくるはず……!)
!!!
「右中間!これも長打コース!!」
「「「「「うおおおおお!!!」」」」」
「セーフ!」
「二塁ランナーホームイン!」
「セーフ!」
「打った月出里も二塁へ!先制タイムリーツーベース!昨年王者の対決、まずはバニーズが黄金世代コンビの連続ツーベースで1点をもぎ取りました!!」
「「「「「ちょうちょ!ちょうちょ!ちょうちょ!ちょうちょ!」」」」」
……ほんま、ここまでやられるともう何も言えんわ……
(どうだよ歌舞伎野郎?)
(ぬぅ……)
「引っ張って!これはセカンド捕って一塁へ!」
「アウト!」
「セーフ!」
「この間に二塁ランナーは三塁へ!」
「いつもの」
「今年はちょうちょあんまり盗塁せぇへんから逆に見ぃひんな」
去年までならこの後十握、その次ウチが定番の流れやったけど……
「3番指名打者、オクスプリング。背番号54」
今日はウチが3番。
「ボール!フォアボール!」
「ああっと!これも外れました!ストレートのフォアボール!」
「今日ちょっと球審辛くね……?」
「まぁ平等に辛い分には別にええんちゃう?」
そこも込みでの見送り。
「4番キャッチャー、冬島。背番号8」
幸貴が続くんやしな。
「引っ張って強い当たり!しかしこれはショート難しいバウンドよく捕った!!」
「「「「「おおおおお!!!」」」」」
「アウト!」
「二塁アウト!」
「アウト!」
「一塁もアウト!ゲッツー!今日はショート赤尾、守備でとことん魅せます!」
(くそっ……!)
うーん、今日の幸貴はちょっとついてへんなぁ……いくら一発狙いでちょっと欲張ったスイングしてるとは言え。
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