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868回敬遠された月出里逢  作者: 夜半野椿
第五章 ホンジ・スキーム
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第百七十三話 至福(2/?)

******視点:氷室篤斗(ひむろあつと)******


「ナイスボール!」


 試合前の投球練習。幸貴(こうき)からの返球を受け取っては投げを繰り返す。こういう時はキャッチャーはピッチャーを褒めて伸ばすのが普通だが、それを抜きしても今日は球の走りが良い。

 今日は降ったり止んだり、降ってる時もパラパラ程度の小雨。バニーズはこの時期、基本的にドーム球場を使って雨天中止をなるべく避けるようにしてるんだが、今週のゲームは交流戦だからか全試合メインのサンジョーフィールド。けど今日に関しては逆に良いな。湿気でいつも以上に指にかかる感触がある。


「今日はマジで頼むで?おっそろしいのが4番におるからな」

「わかってる。アイツの怖さは俺らのほとんどが知ってることだろ?」

「まぁな……オレも結構打ちまくってるつもりなんやけど、倍近くってのはなぁ……」

「ま、それでも俺らから打ったわけじゃねぇ、ってな」

「せやせや。ウチは沢村賞候補だらけやからな。しかもオレがおる」

「……ほんと、すげぇ奴になったよな幸貴」

「運が良かっただけや。オレがプロになってすぐは伊達(だて)さんがまだ現役やったし、1年目から一軍でやれたんは『篤斗(あつと)専門』っていう椅子があったからや。そういう意味じゃ、オレはお前に救われたようなもんや」

「へっ……その割には去年、風刃(かざと)と最優秀バッテリーだったよな?」

「そんなん周りが勝手に決めただけや。オレとしちゃB9にもGGにも選ばれんかったお情けくらいにしか思ってへんわ」

「今年はその辺、全部独り占めできそうだな」

「篤斗やってまた"エース"になれるわ」

「……ありがとな」


 と言っても、まだまだそんな立場じゃねぇのはわかってる。幸貴なりの激励……ではあるが、決して薄っぺらい持ち上げじゃなく、『そういう可能性もある』と本気で信じてくれてる。

 どっちにしろ、今日の試合に限ってはオレが『先発』という"主役"。今日勝てば6連勝で、ヴァルチャーズあと少しでまくれる。逆転優勝の立役者になれるチャンス。存分に調子こかせてもらうぜ。


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 2022ペナントレース バニーズvsペンギンズ


 ○天王寺三条(てんのうじさんじょう)バニーズ

 監督:伊達郁雄(だていくお)


 1三 月出里逢(すだちあい)[右右]

 2二 徳田火織(とくだかおり)[右左]

 3指 リリィ・オクスプリング[右両]

 4捕 冬島幸貴(ふゆしまこうき)[右右]

 5右 松村桐生(まつむらきりお)[左左]

 6左 金剛丁一(こんごうていいち)[左左]

 7一 天野千尋(あまのちひろ)[右右]

 8遊 黒潮隆之介(くろしおりゅうのすけ)[右左]

 9中 秋崎佳子(あきざきよしこ)[右右]


 投 氷室篤斗(ひむろあつと)[右右]



 ●西東京雁芒(にしとうきょうかりのぎ)ペンギンズ

 監督:砂爪勝正(すなづめかつまさ)


 [先発]

 1中 小林怜治(こばやしれいじ)[右右]

 2左 牧羽緑(まきばみどり)[左左]

 3二 鉄炮塚花(てっぽうづかはな)[右右]

 4三 猪戸士道(ししどしどう)[右左]

 5捕 小池段平(こいけだんぺい)[右右]

 6指 ■■■■[右左]

 7一 エル・ディエシシ[右右]

 8遊 赤尾理斗(あかおりと)[右左]

 9右 ■■■■[左左]


 投 ジョニー・レイニー[右右]


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「生憎の雨天となりましたが、熱い組み合わせとなりました本日からのカード、天王寺三条(てんのうじさんじょう)バニーズ対、西東京雁芒(にしとうきょうかりのぎ)ペンギンズ。昨シーズンの優勝チーム同士、そして今シーズンもバニーズは首位ヴァルチャーズと僅差の2位、そしてペンギンズは5月から首位を独走。そしてバニーズは現在5連勝中、ペンギンズはここまでの交流戦4カード全て勝ち越し。両軍共に非常に勢いのある状態でのぶつかり合いとなりました」

「1回の表、ペンギンズの攻撃。1番センター、小林(こばやし)。背番号9」

「今日もペンギンズの切込隊長は小林。昨シーズンにレギュラーに定着し、チームの優勝に貢献。今シーズンもここまで打率.275、8本塁打、そしてOPS.825に14盗塁。得点の要としても、外野守備の柱としても頼もしい存在になっております」


 幸貴とほとんど変わらねぇくらい飛ばす奴が初っ端から。流石はペンギンズ打線。

 と言っても今年は去年と比べて全体的に投手力寄りのチームになってるみたいだけどな。特定の奴になるべく打順を回して、最小限の得点で逃げ切る。去年のウチもよくやってた手だ。


「ストライーク!」

「初球真ん中高め!しかしバットは空を切りました!147km/h出ております!」


 スピードは特別出てるわけじゃねぇけど……


「ファール!」

「これもまっすぐ、149km/h!」

「差し込まれてますねぇ……高めに集まってますが、最近向こうでは逆にこういうのがトレンドらしいですね」

(真ん中めに来たと思ったんだが……)


 まっすぐの威力で相手に思い通りのスイングをさせない。投球の基本中の基本にして王道。これが叶うなら結果的に何km/hだって良い。

 そして、まっすぐを脅威と感じさせりゃ、あとは俺の勝ち……!


(また真ん中め……ここから浮くか……!?いや……!)

「ストライク!バッターアウト!」

「三球三振!最後は伝家の宝刀スプリット!先頭打者を完璧に抑えました!!」


「「「「「氷室(ひむろ)くくくぅぅん!!!」」」」」


 もちろん、こんなのを27回ずっと再現し続けるなんて無理だと思うけどな。どこかで必ず(ほころ)びは出るだろうし、向こうも途中から慣れてくるはず。


「!!これはセンターの前……落ちましたヒット!」


 そしてこういう不運もあって当然。


「一塁ランナースタート!」

「ストライク!バッターアウト!!」

「二塁送球は……!?」

「アウト!」

「刺しました!三振ゲッツー!バニーズ、初回はバッテリーの力で結果的に3人で抑えました!」


「よっしゃよっしゃ!ある意味最高の滑り出しや!!」

「リコの連中に交流戦完全優勝なんてさせへんで!」


「幸貴」

「おう」


 ベンチへの帰り際、それだけ言って拳を重ねる。『それだけで十分だ』と自信を持って言える結果だったから。

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