表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
868回敬遠された月出里逢  作者: 夜半野椿
第五章 ホンジ・スキーム
1109/1128

第百七十三話 至福(1/?)

******視点:リリィ・オクスプリング******


 6月5日。二軍球場。


「ハァ……ハァ……」

「大丈夫か!?そろそろ上がるか!!?」

「ッ……!コォォォイ!!」

「しゃあ!じゃあこれでラストだ!」


 プロに入ってからは一軍の試合でほとんど守備をやってへんけど、別に守備練を全くやってへんわけとちゃう。選手1人1人のレベルが高くて、入れ替わりが激しい今の時代、DHしかできひん奴なんて即お払い箱。優勝チームなら尚更。打つ方で調子落としたんなら当然。

 今年はシーズンが始まってからはファースト7、サード3くらいの比率で守備練。二軍戦でも逆にDHで出ることの方が少ないくらい。サードの月出里(すだち)がアホみたいに打ちまくってるし、金剛(こんごう)さんが一軍上がったけど調子上がってへんし、天野(あまの)さんがセンター回ってる今のチーム状況やとな。


「よく捕った!」

「ナイス!」


 最後の最後に一塁線への強い当たり。せやけど飛び付いたら上手いことミットに収まってくれて、そのままファーストタッチ。

 ほんまに『どっちかと言うと』くらいのレベルやけど、サードの方が一応メイン。でも最近はみっちりと練習して、他人から見ても『サードよりはまだマシ』と思われるくらいにはなってるはず。


「ふぅ……」

「リリィ、ちょっと良いか?」

「あ、はい」


 クールダウンを終えて帰り支度してる途中、コーチに呼び止められる。


「急な話ですまないが、来週から天王寺な」

「え……?」

「今日、十握(とつか)が練習中に太ももを痛めたらしくてな。一応今日の試合には出たが、あまり状態が良くないらしい」


 まさかのチャンス到来。交流戦もあと6試合全部ホームやから、ここからのペナントレースは全部DHあり。


「ここ最近は打球も上がってるし、今のお前ならきっと戦力になれるはずだ。頑張ってこい」

「あざっす!」

「……にしても、お前でもバッティングの調子がこんなに悪くなる時もあるんだな。プロになって4年間、ずっと主軸を打ってたお前が……」

「いや、まぁ……そもそも月出里の方が打ってますし、ウチやって人間ですよ?」


 ……失恋したくらいでいつまでもウジウジしてる程度の、な。

 ほんまマヌケな奴やで。英語喋れへんからこのまま結婚して日本に根を張るつもりやったのに、グズグズしてる間に可愛いアイドルに()られて、子供までこさえられて……


 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・


 6月7日。久々のサンジョーフィールド。今日からの3連戦の相手はあのペンギンズ。去年帝シリで戦って勝てへんかったとこ。

 ヴァルチャーズとの優勝争いもあるし、結構な大一番。随分なタイミングで一軍上がったもんや。足引っ張らんようにせんとな……


「よう、リリィ」

「!!お、おう……幸貴(こうき)か……」


 まだ話しかける気分やなかったけど、向こうから来て思わず返事。


「DH、長いこと楽しませてもろたで」

「お前、打ちすぎやで……ウチのキャリアハイ超えそうやん」

「今年だけはな」


 せやんな。やっぱり子供のことで……


「なぁ、赤ちゃんそろそろやっけ?」

「今で8ヶ月ってとこや。来月、再来月には産まれるな」

「そうか……」


 現役アイドルと結婚して、もうすぐ子供も産まれる。球団の偉いさんはもちろん知ってるっぽいけど、選手の中じゃそこまで詳しく知ってるのは多分ウチだけ。何なら付き合い始めの頃から話は聞いとる。これでも大学の頃からの付き合いやしな。

 ……でも、幸貴にとっちゃウチはその程度。幸貴があんな可愛い子捕まえたって何もおかしないことやってウチにはわかるけど、所詮はその程度止まり。


 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ