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868回敬遠された月出里逢  作者: 夜半野椿
第五章 ホンジ・スキーム
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第百七十二話 雌伏(2/?)

「1回の裏、ジェネラルズの攻撃。1番センター、菱事(ひしこと)。背番号8」

「ジェネラルズも初回の攻撃に入ります。本日も先頭打者は菱事。ジェネラルズへ移籍して早4年目。ここまで3年連続20本塁打、出塁率も.350以上。守っても外野守備の要。19年・20年シーズンの2連覇にも貢献する頼れる男。今シーズンもここまで例年通りの安定した成績」


 この人は三振はいくらでもして良いから出塁率と強い当たりを求めていく、典型的な今風の打者。


「ストライーク!」

「まっすぐ!初球148km/h、見送ってストライク!」


 比較的一発の出やすい球場でも、追い込むまでは臆さずゾーンに入れていく。先頭打者なんだから尚更。


(また入れてきたか、いや……)

「ファール!」

「これは右方向、切れました!」

「今のは少し落ちましたかねぇ?」


 夏樹(なつき)直伝の、落差を落とす代わりにカウントを稼ぐスプリッター。こいつがあるおかげでまっすぐ・スプリッター以外の球はあんまり投げる必要がなくなった。


「ファール!」

「ボール!」

「ストライク!バッターアウト!」

「これも落とした!空振り三振ッ!」


 近しい投げ方の新球種を加えても、肝心のウイニングショットに影響はなし。この辺も他の球の練習にあんまり時間をかけずに済んでるからだな。


「ボール!フォアボール!」

「高め!これは選びました!」


 追い込むことはできたし、高めに強いまっすぐは行ってる。少し浮いたのと打者がよく見ただけ。これは良い。


「3番セカンド、九十九(つくも)。背番号99」

「ワンナウト一塁で打席には九十九。今シーズンも開幕スタメンを勝ち取り、5月頭に死球による一時離脱があったものの、2週間足らずで一軍復帰。開幕からの好調も維持し、ここまで170打席に立って打率.342、走っても6盗塁、守っても先ほどの好プレー。2017年ドラフト1位でプロ5年目、期待通りの活躍を魅せております!」


 そう言や去年ウチの投手もぶつけて長期離脱させちまったな。そういうのがある、っていうのが本音だが……


「ボール!」

「まずは外まっすぐ、これは外れました!」


 打球方向的にも左のプルヒッター。イメージとしては『若干確実性が落ちる代わりに一発もある火織(かおり)』って感じだな。一塁ランナーもいるから右方向を封じるためにも基本的に外攻め。


(フン……それは想定内)


 そしてインローにやたら強いがインハイは苦手。できれば最後にまっすぐをそこに入れたいところ。


(外の球を引っ張って良くない決まりなどない……!)

「引っ張って強い当たり!」


 やるな……!だが!


「セカンド難しいバウンドよく捕った!二塁は諦めて一塁へ!」

「アウト!」

「間に合いました!セカンド徳田ファインプレー!!」


 ウチの嫁さん舐めてもらっちゃ困るぜ。


「うぬぬぬ……!」

氷室(ひむろ)くん助かったけど、よりによって……!」

「バネキ達は一体何と戦ってるんですかねぇ……?(困惑)」


(リベンジ成功ってね♪)

(……別リーグで良かったな。ただでさえ千石(せんごく)女史によってGG賞がなかなか獲れないのだから……)


 今の現役選手は単純に樹神(こだま)さんや五宝(ごぼう)さんの影響で野手だけじゃなく投手でも右投げ左打ちが多いし、幾重(いくえ)さんや友枝(ともえだ)さん、それにウチの十握(とつか)なんかもそうだから、このブームはきっと今後も続く。どのみち『一塁がより近い』って点では絶対に左の方が有利なんだしな。

 そして今は投手の平均球速が上がって、そもそもバットに当てるのが難しくなってるから、当たった時のリターンをより大きくするために強い打球を打てるようにっていうのがメジャーだけじゃなく日本でも一般的になりつつある。そして強い打球を打つ基本は『引っ張ること』。

 つまり、野球は競技のレベルが上がったり、効率を求めれば求めるほど、必然的に打球の方向が右へ右へと集まっていくものだと言える。

 遥か昔はセカンドよりサードの方が仕事量が多かった時代もあったみてぇだし、今でも草野球とかだとセカンドよりサードの方が基本的に上手い奴が守るもんだが、そういうのを考えると、『野球の競技レベルアップの歴史』ってのは『セカンドの重要性の変遷の歴史』と言えるのかもしれねぇな。


(ナイス火織さん)


 ……もっとも、それはあくまで『全体的に見て』って話。個人レベルで……『もし"史上最強の打者"が現れるとするなら』ってのを考えた時には、必ずしもそいつは左打者とも限らねぇはず。現にウチの……そしてリプの今の最強打者は、あそこでニヤリと笑ってる右打者なんだしな。


「ショート捕って、一塁転送!」

「アウト!スリーアウトチェンジ!」

「軽快に捌いてスリーアウトチェンジ!ジェネラルズもフォアボールでランナーを出しましたが得点には繋がりませんでした!」


「やるな黒潮(くろしお)!本職はどうだ!?」

「へへ……高卒2年目でレギュラーになった奴がいるから守る機会がないと思ってましたよ」


 宇井(うい)は期待通り今年も開幕スタメンショートを勝ち取って、ヴァルチャーズとの直接対決で活躍したりしてたが、全体的に見ると打率1割台で低迷も低迷。自慢の一発もなかなか出ず。とうとう二軍落ちして今はショートを黒潮と相沢(あいざわ)さんで回す運用。『ショートは10年安泰』とか言われて、あれだけ蝶よ花よな扱いだった宇井でもこうなる時はこうなる。改めてプロは怖い世界だと実感する。

 ……そして、俺もそれは他人事じゃねぇ。去年は一時期成績が相当落ち込んだし、OB・OGの一部には『リリーフ転向すべき』とか言われたり、ファンにもオワコン扱いされたり、まぁ散々なもんだった。実力が明らかに上の奴にエースの座を()られたんだから当然っちゃ当然だが。

 もちろん、このまま終わるつもりなんかねぇ。山口(やまぐち)だけじゃなく、雨田(あまた)とか常光(じょうこう)辺りもきっとそう思ってるはず。


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