第百七十一話 巡り巡って(6/6)
「バニーズ、選手の交代をお知らせします。ピッチャー、夏樹に代わりまして、イェーガー。ピッチャー、イェーガー。背番号99」
「7回に逆転を果たし、1点をリードしましたバニーズ、勝ちパターンに入ります。マウンドには今シーズン無失点ピッチングが続いております、助っ人外国人のリーナ・イェーガー。昨シーズンのバニーズ優勝の要となりましたリリーフ陣で特に目覚ましい活躍を魅せ、今シーズンも"8回のスナイパー"として君臨します」
ボク自身がクローザーから先発に回ったりもして今年のバニーズは去年と比べてリリーフがそこまで盤石じゃないけど、イェーガーは例外……
「引っ張って強いゴロ……ああっと!サード弾いた!!」
え……?
「セーフ!」
「これは送球間に合いません!記録はサード月出里のエラー!!」
「「「「「ちょうちょおおおおお!!?」」」」」
まぁ確かに月出里の内野守備は普通にトップクラスではあるけど、エラーは特別少ないわけじゃない。それでも今のは……
(ゴメン……)
(気にするな。今のは長打にならなかっただけ儲け物だ)
気まずそうに謝罪のジェスチャーをする月出里に対してイェーガーも特に気にしてない様子。そこからもわかるように、エラーか内野安打か微妙なライン。
「打ち上げた!これはセカンドとライトの間、微妙なとこ……」
(このくらいアタシなら余裕の守備範囲!)
(今日は打つ方でも守る方でもアピール成功!これも捕って……)
……!危ない……
「ああっと!セカンドとライト衝突!捕れません!!」
「「「「「ファッ!!?」」」」」
「セーフ!」
「一塁ランナーはこの間に一気に三塁へ!ノーアウト一塁三塁!!」
「おいィ!?何やっとんねん!!?」
「ちゃんと声出して連携せぇよ!」
「スナイパーの足引っ張んなや!」
徳田さんは確かにちょっと突っ走るとこがあったけど、天野さんと松村さんは徳田さんのそういうところを理解してるから、自重して徳田さんに譲ったり声をかけたりしてこういうのは今までなかったけど、今日のライトは黒潮……
(今年も、そして来年以降も優勝していくためには選手層の補強が必要。どのポジションでもなるべく競争が起きるように今年は選手の実力より調子を優先してコロコロと入れ替えてるけど、連携の部分で裏目に出てしまったか……しかもこのタイミングで……)
(……そもそも想定通り三振を奪れていればこのようなインシデントはなかった。私の落ち度でもあるな……)
こういう時でもバックを睨んだりとかそういうのも見せないのは流石のイェーガー。けどこの状況で切り抜けるのは……
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「ストライク!バッターアウト!!ゲームセット!!!」
「スイングアウト、三者連続!試合終了、3-2!ウッドペッカーズ、終盤の再逆転でカード1戦目を制しました!」
「うーん、まぁよそ行っても百々には負けつけたくなかったけど、勝てへんのはなぁ……」
「やっぱリリーフがなぁ……」
イェーガーはあれだけ不運が重なっても同点止まりでどうにか踏ん張ったけど、9回に勝ち越しを許し、結局負け。
「…………」
まぁどんな試合でも負けたら露骨に落ち込む月出里だけど、今日の落胆ぶりはいつも以上。
「しょうがないさ、月出里。今日は運が悪かった」
「……せっかく、勝つためにバッティング崩したのに」
「え……?」
「最初の3打席、ずっと浮いてるチェンジアップに手こずってたでしょ?」
「あ、ああ……」
「あれってね、今年のあたしの打ち方だとどうしても打ちづらい球だから、4打席目に意識を変えたんだよね。『去年みたいにもっとフラットに、来た球を素直に打ち返そう』って。それで打てたんだけど、逆にそのせいで試合中のリズムが狂って守備でミスっちゃったのかも……」
「そうだったのか……」
ボクの視点だと全然違う解釈だったけど、そういうことだったのか……単に成長したとかそういうのじゃなく……
今年はずいぶんと順調な滑り出しになったのに、ここに来て選手個人にとってもチーム全体にとっても裏目だらけの試合。ケチの付き始めにならなきゃ良いけど……




