第百七十一話 巡り巡って(4/?)
「大ピンチを凌ぎ、あとは追いつく追い越すだけとなりました、7回の裏のバニーズの攻撃。この回の先頭打者は昨年のドラフト3位の大卒ルーキー、黒潮隆之介。ファームでの春先からのアピールと、一軍の外野が軒並み不調ということで早速チャンスを掴みました。今日はライトのスタメンで先ほどは好守を魅せましたが、メインのショートを始め、内外野を満遍なく守る器用な選手です。マウンドには尚も百々(どど)が立ち塞がりますが、第一打席でその百々からツーベースを放っております。続く打者は月出里。チームの柱に上手く繋げられるか……」
「ファール!」
「初球から振っていきました!143km/hまっすぐ、しかしこれはバックネットへ!」
百々さんの球威はまだまだ衰えてない。言うほど四球はなかったけど無駄なボール球が多くて6回までに100球近く投げたボクと違ってまだまだ余裕がある。
「……ボール!」
「バットは止まっております!これでツーボールツーストライク!!」
「ナイセンナイセン!」
「何か知らんけど合ってるぞ!」
プロで何年も戦ったボクらだけど、戦った経験の少ない百々さん相手なら、ルーキーが云々なんてあんまり関係ないね。経験よりも相性が出てる形。
(同点の一発なんて狙う必要はねぇ。次は自慢の"最強打者"様。無難に繋いだ方が好感を稼げるってね……!)
「カーブ!しかしこれは上手く掬い上げた!ピッチャーの頭上!」
「「「「「うおおおおお!!!」」」」」
「お手本通りのセンター返し!ノーアウト一塁!」
流石、ルーキーで一番最初にチャンスを掴んだだけある。自分のやるべきことをわかってる。
「1番サード、月出里。背番号25」
(黒潮くんがきちんと繋いでくれた。こうなったからには……)
「ん……?」
気のせいか?見慣れたはずの月出里のルーティン。何か心なしかいつもと違ってたような……?
「百々と今日4度目の対決となります、打席の月出里。しかし今日はまだヒットがありません。三振1つにセンターフライ、セカンドゴロと自分のバッティングをさせてくれません」
「どういうわけか少し浮いたチェンジアップに苦戦してる印象がありますね……」
確かに。今日の負けパターンは大体似たり寄ったり。それだけ百々さんの制球が良いってことなんだろうけど。
「ストライーク!」
「まずはカーブから入ってきました!」
(すんなりと見送ってきたわね……ちょっと嫌な予感……)
(ここまでは緩い球中心。ならここは逆に……!?)
「!!引っ張って!」
「「「「「おおお!!?」」」」」
「ファール!」
「しかしこれはレフト方向、スタンドに入りましたファール!」
「ファールボールにご注意ください」
狙ってるな、逆転の一発……
(なら、ここは誘い球……!)
「ボール!」
「高め!見送りました!!」
(外れたか……それでももう1球!)
「ファール!」
「これもレフト方向へ!」
(しかし布石は十分。多少浮きすぎてもOK。これだけ力んでるのなら……)
(こういう攻め方をしてきたのはこの前のヴァルチャーズが初めてだったけど、今日の試合で百々さんも同じことをしてきたし、そろそろ他の球団にだってきっとバレる。3年前のあのシフトの時みたいに)
そうなってくると、向こうが最後に投げてくるのはきっと……
(単純に雨田くんや神楽ちゃんを勝たせたいし、今日負けたらきっと、あたしどころかチーム丸ごと百々さんのカモにされかねない。ならここであたしが取るべき選択肢は……!)
「!!!センター右寄り、センター下がって……」
「「……え?」」
「入り……ません!しかしセンター捕れません!フェンス直撃!」
「「「「「うおおおおお!!!」」」」」
「セーフ!」
「一塁ランナー、クッションボール処理の間に一気にホームへ!」
「セーフ!」
「そして打った月出里も三塁へ!タイムリースリーベース!バニーズ、ついに追いつきました!」
やってくれた……!
「真ん中少し低め、これも甘く入ったチェンジアップでしたが、しっかり捉えましたね。この打席の中で少し力みを感じてましたが、最後は月出里らしい、技ありの一打でしたね」
(ほんと、油断ならない子だわ……)
あのコースのあの落ちる球、試合の中で克服したということだろうか……?何にせよ、流石だ月出里。
(良い形で繋いでくれたね、逢ちゃん)
「2番セカンド、徳田。背番号1」