第百七十一話 巡り巡って(3/?)
とりあえず6回までは投げ切った。琴張さんの一発で1失点。余裕のQSだし、仕事をした自負はある。
「これは当てただけ!ピッチャー正面、上手く捕った!!」
「アウト!」
「ファースト捕ってワンナウト!百々(どど)、古巣バニーズ打線を寄せ付けません!!」
「マジで勝ち頭失ったの辛すぎるんやけど……」
「逆に考えるんだ。『勝ち頭を同リーグ球団に奪られても優勝争いできてる』と考えるんだ」
「雨田くん、次の回どうする?」
「投げさせてください」
伊達さんとしてもきっと悩ましいところ。回頭で球数91球、今の野球だと本当に代えるかどうか悩むライン。前の回で3者連続奪三振とは言え。
けどそれは一般的なレベルの話。プロになるまではずっと先発だったし、ギアを調整するのは昔から得意。このために出力を抑えてきたんだから、あと1イニングくらい……!
「3番セカンド、琴張。背番号3」
百々さん相手に先に降りるってとこでまで負けたくないし、この人にリベンジもしたいしね……!
「ボール!フォアボール!!」
「これも外れました!ストレートのフォアボール!!」
……!?
「4番指名打者、鳴海。背番号35」
こんなことくらい……!?
「強い打球!ライトの前!これでノーアウト一塁二塁!」
「ヒット・バイ・ピッチ!」
「これは当たっております!ノーアウト満塁!」
やってしまった……
(雨田くんは決まった型で投げるのが得意だからこそ、先発の時は疲労などの感覚のズレで突発的に崩れてしまうところがある。この辺の見極めが甘かったのは僕の責任……)
「バニーズ、選手の交代をお知らせします。ピッチャー、雨田に代わりまして、夏樹。ピッチャー、夏樹。背番号27」
「あーっとここで交代です……ここで頼れる火消し役、夏樹の登場です!」
こればっかりは仕方ない。ボクのせいだ。
「すまない、頼む」
「おう!」
「7番センター、乾。背番号8」
(両刃……いや、そんなん関係あらへん。いきなりスイッチやけど、夏樹ちゃんは単なるワンポイントちゃう)
「ストライーク!」
「初球、見送ってストライク!」
「ちょっと落ちるフォークですかね?ここはなるべくならホームゲッツー狙いたいところですが……」
夏樹も案外球種は多くない。基本的にまっすぐかフォークかカーブのみ。でもボクとの違いは……
(カーブ!いや、思ったより速い……!?)
「打ち上げた!これはショート見上げて……」
「アウト!」
「捕りました!まずはこのピンチにアウト1つを取りました!」
多分普通のカーブを狙ってたところの速いカーブ……というかスラーブ。
ゴロならゲッツーを狙えるけど、ゴロは送球なんかも絡むし当然エラーも絡みやすい。1点差のこの状況だとハイリスクハイリターン。三振の次に安全なのはああいう凡フライ。アウトはたった1つだとしても。
ノーアウト満塁なんて最悪な状況を押し付けられても、欲張らずに確実な方法を取れる。それがアイツの強み。
「ストライク!バッターアウト!」
「ライト後退!捕りましたスリーアウトチェンジ!夏樹、このピンチでパーフェクトリリーフ!」
「流石や巫女ちゃん!」
「地味にちょうちょよりも長く一軍にいる女」
「黒潮!助かったぜ!お前ほんと内野メインかよ?」
「これくらい何でもできなきゃ生き残れねぇよ、今のこのチームだとな」
今日ライトスタメンの黒潮。ボクらと同い年の大卒ルーキー。
今年はボクら世代の選手をいっぱい獲ったってことで色々話題になってたけど、正直今のところそこまで飛び抜けた選手は出てきてない。その中で一番最初に出てきたのが黒潮。いきなり一桁背番号もらっただけのことはあるか。
「7回の裏、バニーズの攻撃。9番ライト、黒潮。背番号9」
これからもプロで生き残れるかどうかは、こういう時に結果を出せるかどうか。