第百七十一話 巡り巡って(1/?)
******視点:雨田司記******
5月6日。開幕から早くも1ヶ月以上が経過した。
今年からボクはプロ5年目にしてようやく念願叶って先発ローテ入り。残念ながら風刃ほど無双してるわけじゃないけど、今のところはどうにかやれてる。
でも、決して今の地位が安泰ってことはない。開幕先発ローテの内、常光さんが先週脱落したし、野手陣も秋崎が割と早くに二軍に落とされたりと、今年の伊達さんは結構容赦がない。調子の悪い選手は迷わず二軍に落として、二軍から上がってきた選手をすぐに使う。
ただ、このやり方は今のところ上手くいってる。現に勝率は今でも7割をキープ。この結果は伊達さんの選手の見極めが的確であることと、選手の層が厚くなったことの顕れ。
けど残念ながら、これだけの勝率でも首位はギリギリでヴァルチャーズ。バニーズはヴァルチャーズに勝ちまくってるけど、ヴァルチャーズはバニーズ以外に勝ちまくってるという現状。
こうなってくると、ウチとしてもヴァルチャーズ戦以外も落とせない。今日からはホームでウッドペッカーズとの3連戦。今日投げ合う相手は、そんなチーム状況じゃなくても個人的には何としてでも勝ちたいあの人。
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「1回の表、ウッドペッカーズの攻撃。1番レフト、騒速。背番号6」
「バニーズの本日の先発は、今シーズン6試合目の登板となります、プロ5年目の雨田。昨シーズンはクローザーとして30セーブを挙げ、チームの優勝に貢献しました。今シーズンは開幕から先発としての登板となっております。ここまで5試合で33回を投げて防御率2.18、2勝2敗。2年連続優勝を目指すチームにしっかりと貢献しています」
ウッドペッカーズの打線は全体的に球を選ぶタイプの選手が多い。あまり慎重になりすぎずに……
「ストラーイク!」
「初球は見送ってストライク!いきなりまっすぐ151km/hが出ました!」
「やっぱ今時は右の先発やとこのくらい出してもらわんとなぁ」
「まぁクローザーやってた時と比べたらだいぶ遅いけどな」
……先発をやるならまず何と言っても必要以上に球数を嵩ませないこと。そのためにはまずストライクゾーンに投げられなきゃ話にならない。そして球数が嵩む以上、スピードを上げすぎると後でバテる。そういう意味でも、必要最低限のギアで的確にゾーンを通していくのが重要。
「ボール!」
「ファール!」
「引っ張りましたがこれは切れました!」
「今のはカットボールですかね?」
そして打者三巡くらいを想定して、なるべく球種はあった方が良い。
「ストライク!バッターアウト!!」
「最後はチェンジアップ!スイングアウト三振ッ!!」
「ええぞええぞメガネ!」
「先発もいけるやん!」
「これはちょうちょの同期のドラ1、雨田司記」
もちろん、ボクだって先発であろうが160くらいの球をガンガン投げれるなら投げたいけどね。でもあくまで一番の優先は『先発でNo.1になること』。そしてそのためには必然的に風刃や山口さん、鹿籠に勝たなきゃならない。結果を出すための手段にこだわりすぎるようなことはしない。
「センター下がって……」
「アウト!」
「これもセンター落下点に入って……」
「アウト!」
「捕りましたスリーアウトチェンジ!雨田、初回はキッチリ3人で抑えました!」
「天野さん、ありがとうございます」
「このくらい軽いよ!ナイピー!」
今年はセンターが割とコロコロ変わって、最初は秋崎、そして相模さんが守ってたけど、相模さんもバッティングの調子を崩して今は天野さん。ライトを守らせたらチームで一番上手い人だけど、センターでも十分。
……まぁものすごく個人的には、やっぱり秋崎に守ってもらって労って欲しいんだけどね。




