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868回敬遠された月出里逢  作者: 夜半野椿
第五章 ホンジ・スキーム
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第百七十話 誰かにとっての主役であれ(5/5)

「ボール!フォアボール!!」

「選びました!月出里(すだち)、今日これで3つ目のフォアボール!!」


「猛歩賞猛歩賞!」

「ええぞ!打率キープや!!」


 しかしこうも四球続きだと、(あい)ちゃんが昨日の試合を受けて今日の試合でどう動いたかが読めねーな。


 プロで10年以上やってきたオレの感覚からすると、今の野球は言ってしまえば『穴のずらし合い』。

 今の野球は打者も投手もメチャクチャレベルアップしまくったから、圧倒的な実力だけで無双ってのがクソ難しくなってる。打者は打者で投手の平均球速が上がりまくってるから苦手なコースとか球種はある程度捨てねーといけねー。投手は投手で色んなタイプの打者に対応するためできるだけスピード上げたり多くの球種を習得したいとこだけど、時間的にも体力的にもある程度優先順位は必要。つまり必然的にどっちもどっかに『穴』はできる。そして、今は機械のせいでそんな『穴』が簡単に見つけられちまう。

 だから、毎年のように良い成績を残すためには、むしろ常に変化し続けなきゃいけねー。極端な例だと、去年アウトロー無理インハイ得意でも、今年はその逆にするとか、そんな感じで『穴』をずらせねーとカモにされ続けるだけ。

 逢ちゃんの『高め強打、低め軽打』ってのも、『穴』を作る代わりに他のとこで数字を稼ぐ手段と言える。逢ちゃんだって『低めの球は今までホームランにできてねー』っていう根本的な弱点があるから、逢ちゃんほどの実力者でも、今の野球で勝ち続けるためにはそういう工夫が必要になるわけだ。


 ただ、昨日あんな感じで完璧に対策されたからと言って、すぐに『穴』をずらすべきかと言われれば、それは断言できねー。何せウチの投手陣みたいに、球威に長けてるけど逢ちゃんの例の弱点を器用に突くのは苦手な投手が多数派だと、むしろ現状維持の方が期待値が高いと言える。それに、そもそも例の弱点に気付いてるのはまだウチだけの可能性が高いんだしな。

 それでも、ウチの試合を分析したりで、他球団もいずれは例の弱点に気付くはず。それまで現状維持するにしても、そのバレるタイミングが全く読めねーし、今の逢ちゃんのスタイルをすぐに修正できるとも限らねー。逆に今メチャクチャ上手くいってるからまた元に戻したくなったとしても、今のスタイルの感覚を二度と取り戻せねー可能性もある。だからあえて今年いっぱい現状維持ってのもありえねー選択肢でもねー。単純なように見えて、この辺の駆け引きはクソ難しい。

 逢ちゃんが今年目標に掲げてる『打率4割』っていう今のプロ野球じゃ考えられねーような数字も、きっとこういう駆け引きで勝ち続けなきゃ勝ち取れねーもの。そんなわけで、今日どうなったかが見たいわけなんだが……


 ・

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 ・


「逆方向!ショート飛びつきましたが捕れません!!」

「セーフ!」

「ホームイン!3-2!バニーズ、サヨナラ!サヨナラ!最後は宇井(うい)の一打で、延長11回の激戦を制しました!」


「「「「「いやったあああああ!!!」」」」」


 あーあ……


「これでバニーズは今シーズン15勝6敗、勝率.714!ヴァルチャーズを再びまくって首位浮上となりました!」


「ざまぁ見ろや金満!」

「お天道(てんと)様はやっぱり見てるんやなって」

「今年も優勝もらうで!」


「いくら勝率同じくらいでも、直接対決で負けまくってたらなぁ……」

「ポストシーズンもあるんやしなぁ……」

「ええ加減にせぇやノーコン投手陣!」


「「「「「はぁ……」」」」」


 ベンチに引き上げてきた奴らの表情はやっぱり暗い。そりゃそうだよな。2イニングスも残業やった結果がこれなんだもんなぁ。

 実際、いくらリーグ戦だからって、優勝を争ってる相手に負けまくってるのはカッコつかねーよな。他球団でプチプチと勝ち星稼いで優勝するのもそりゃルール上全く問題ねーけど、やっぱり理想はどこ相手でも勝ちまくれること。

 ……こういうのは運とか巡り合わせとかそんなのも絡んでるとは思うけど、思い当たる節が何かあるかと聞かれたら……心なしかオレらに渡されるバニーズのデータって、他球団のより何か少ねーというか、深くねーというか、そんな気がするんだよな。昨日の逢ちゃんのアレみたいなのもたまにもらったりするけど。

 まぁ、だからと言ってそういう仕事はオレらのやることじゃねーし、個人的に相手の選手を見るとかそんなのでしか改善しようがねーこと。


「おうどうしたどうした爽也(そうや)。暗いぞ?」

「そりゃ凹みますよ……昨日今日打ちまくったのに……」


 爽也は自慢の守備だけじゃなく、バッティングも今年好調。おかげで勝ちまくれてる。


「もっと胸張れ。オレら人気者なんだから、いつカメラ抜かれるかわかんねーんだぞ?それに、ほら?」

「?」


 爽也と肩を組んで、観客席の方を指差す。


「爽也くんナイスファイト!」

「今年こそタイトル獲ってね!」

「"バントの人"なんかじゃないんだから!」


「……!」

「お前はあの可愛い子ちゃん達にとって"主役"だろ?」

「……はい!」


 勝てねー時はあるし、勝ってても辛い時もある。運や巡り合わせ、データがどうとか、オレらじゃどうしようもねー部分もある。

 オレらにできることは、どんな時でも『誰かにとっての主役であれ』を貫くことだ。たとえ他球団のファンにどれだけ"悪役(ヒール)"扱いされようが、オレらのファンがオレらを"主役(ヒーロー)"だと信じてる限りはな。

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