第百七十話 誰かにとっての主役であれ(4/?)
4月21日。バニーズとのカード3戦目。
今のところこのカードは1勝1敗。そして昨日はついに逢ちゃんの対策が見つかって想定通りに勝てた。そう考えると、今日の試合はウチが有利なように見えるけど……
「ボール!フォアボール!!」
「高め、これはすっぽ抜けました!月出里、第1打席は選んでフォアボール!ノーアウト一塁、先頭打者が出ました!」
「お菊!ちゃんと制球せれ!!」
「うーん、今日のお菊ガチャはNかなぁ……」
ウチの投手陣はこれがあるからなぁ。
「2番ファースト、松村。背番号4」
ヴァルチャーズの投手陣はストレートの平均球速とか変化球の質とか、チーム全体の球威に関しては間違いなく12球団トップクラス。それは味方の贔屓目抜きでも自信を持って言える。そうでもなきゃ指標に説明がつかねーしな。そしてそういう球威のある投手を量産することに関しても長けてると言える。
ただ、そういうタイプの投手ばかりで、制球が単純にあんまり良くないのと、勝つためにインコース使うのも躊躇しないから、四死球が毎年のように多い。特に死球に関しちゃ毎年のようにリーグトップを争ってるし、去年はバニーズが優勝争いしてる時に十握くんと宇井ちゃんにぶつけて大ひんしゅく買ったからなぁ……
要するに、昨日の試合でせっかく見つけた『ストライクゾーン内で高めから低めに落ちる球』っていうのを使うこと自体が難しいということ。昨日は制球の良い細平さんだったから生かせたけど、お菊は良くも悪くもウチらしい投手。自慢のフォークも、そこまでは細かく運用できねーだろうな。
「初球打って、レフトの前!落ちましたヒット!ノーアウト一塁二塁、チャンスを広げました!」
「ここ最近乗ってる松村を2番に上げてきたのが生きましたね」
「3番レフト、十握。背番号34」
向こうは柔軟だな。調子の良い打者を積極的に上に上げる。
「引っ張って痛烈!しかしこれはセカンド上手く捕った!二塁へ!」
「アウト!」
「一塁は……」
「アウト!」
「一塁もアウト!ゲッツー!!」
「「「「「あっちゃあ……」」」」」
豪快な野球のイメージが強いけど、ウチの本当の自慢は守備走塁、ってな。
「4番指名打者、冬島。背番号8」
「ツーアウト三塁で打席には今シーズン絶好調の冬島。ここ最近は山口の登板日に有川にマスクを任せて指名打者に専念という起用法が目立っておりましたが、昨日に続いて今日も指名打者での出場となりました!」
「去年のワイらに教えたら絶対こんな状況信じひんやろうなぁ……」
「でもこれで勝ててるしなぁ……」
オレもびっくりだわ。そりゃキャッチャーとしちゃずっと良い選手だと思ってたけど……
「外打って、ピッチャーの足元抜けた!」
「「「「「おおおおお!!!」」」」」
「セーフ!」
「三塁ランナーホームイン!1-0!バニーズ、先制!昨日の完封負けの悔しさを初回から払拭するタイムリーヒット!」
「普通に良い打者すぎて草生える」
「向こうのお菊も150中盤ガンガン投げてるのに普通に打ち返すんだよなぁ」
(全くだ。これじゃ言ってしまえば"足が遅すぎる月出里"だな……いや、現状は昨日のアレで弱点がわかった月出里よりもタチが悪いかもしれん。どう攻めるべきか……)
うーん……やっぱりバニーズもどんどん逢ちゃんとかだけのチームじゃなくなってきてるよなぁ。厄介だわ。
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