第百七十話 誰かにとっての主役であれ(1/?)
******視点:友枝弓弦 [博多CODEヴァルチャーズ 外野手]******
4月19日。ペナントレース開幕からもう1ヶ月に迫ろうとしている。
今日からは大阪でバニーズと2カード目にして首位攻防戦。まだ1ヶ月弱だから最終的にどうなるかはわかんねーけど、とりあえずシーズン序盤は周りが予想してた通り、バニーズが対抗馬になった形。
ちなみに前のカードは屈辱の逆スイープ。どっちみち負けられねーわな。
「よぉ、逢ちゃん」
「友枝さん」
試合前の練習、打撃練習の交代のタイミングで逢ちゃんに声をかける。去年は六冠王未遂、今年もやべーくらいに打ってる、まさにリーグのスーパースター。
「調子良いな。打席でどういう意識でやってるんだ?」
「流石にそれはよその人には教えられません」
「そりゃそうだわな」
「別に友枝さんのことを疑ってるわけじゃないんですけどね」
「解ーってるよ。そのくらい当たり前の線引きだ。変なこと聞いて悪かったな」
「いえ、気にしてませんよ」
「今日もお互い頑張ろうな」
「はい」
「リーグの新旧最強打者の交流かぁ……」
「阿呆!"リプの主役"は今も昔も弓弦たい!」
「いやぁでも、流石にちょうちょ相手はなぁ……」
観客席からの反応。プロ野球選手やってりゃどこでもよく聞く話……どのチームが主役か、どの選手が主役か。そういうのは大抵、自分の贔屓の球団かどうかの色眼鏡をかけつつ、成績や実績で考えがち。
オレは今でもプロ野球ファンとしてはスティングレイ一筋だし、オレ自身も『今の日本人選手の主役は誰か』と聞かれたら迷わずオレじゃなく幾重くんを選ぶ。そういうオレだからこそわかる。プロ野球にはチームであっても選手個人であっても"絶対的な主役"なんて無ー。
そういうのは個人個人が自分にとってそう思うものを選べば良いだけの話。それこそ成績とか関係なく、自分の基準で選べば良い。例えばずっと二軍で燻ってるような奴でも、『そいつと学生の頃にずっと同じチームで頑張ってきたから』とか、そんな理由で自分の中の"主役"にしても全く問題無ー。貧乏球団が金持ち球団に打ち勝つことにロマンを感じるのも、それはそれでそいつの自由。
ウチの球団、ヴァルチャーズはリーグの中でも飛び抜けた集客力を持つ反面、正直アンチも飛び抜けて多い。まぁオレも球史の中での貧乏球団の代表みたいなチームのファンだから、気持ちはわからなくもない。いわゆる金満で、その上そのカネ関係で親会社が割とグレーなことをやってるんだから、その時点でアレルギー反応が出る人間がいるのも仕方ないこと。
けど、だからと言って、結果としてこれだけの数のファンが集まってるんだから、オレら選手は遠慮するわけにはいかねぇ。それだけ多くの人間が、ヴァルチャーズを主役として認めてくれてる証拠なんだからな。
単純な勝ち負けだけじゃなく、誰かにとっての主役であろうと必死になること。オレ達としてもそこまでやって初めて、これだけの数のファンに誇りが持てるってもんだ。
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