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868回敬遠された月出里逢  作者: 夜半野椿
第五章 ホンジ・スキーム
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第百六十九話 幻の変化球(3/?)

「4回の表、バニーズの攻撃。1番サード、月出里(すだち)。背番号25」


「0-0、両投手の好投が続いております。アルバトロスの先発、鹿籠(こごもり)はここまでパーフェクトピッチング。1回には月出里(すだち)の今シーズン初の三振を奪いました」


「『葵姉貴(あおいあねき)の完全試合を見守るスレ』……っと」

「ってか葵姉貴、今年まだ1点も取られてないんだよな……?」


 あのシュート、あの威力なら初見で打てないのはまぁ当然。威力だけの代物じゃないって証明されるのはやはり2巡目以降。


「ファール!」

「まっすぐ151km/h、初球から振ってきました!」


 ウフフフ……『カミソリシュートがまた来る前に仕留める』。まぁベターなやり方ねぇ。でもそれは裏を返せば、それだけ厄介な球だという認識である証明。


(なら早いカウントでまた使っていきましょう)

(はい!)

(……だと思わせれば良い。悔しいけど)

「第2球……」

(!!やっぱり来た……!)


 スイング……ストレートだと思ってか、あるいはシュートを誘った結果かは分からないけどぉ……


「!!?」


「「「「「ファッ!!?」」」」」


「バットが折れた!これはピッチャーの前、ボテボテのゴロ……」

「アウト!」

「落ち着いて捌いてまずはワンナウト!この打席も150km/hのシュートで仕留めました!」


「あのちょうちょがバット折られた……!?」

「嘘やろ……?」


 そういえばルーキーの頃、あの子二軍で毎試合のようにバットボキボキ折ってたわねぇ。今じゃ逆に芯で捉えまくってるせいで平均打球速度がエライことになってるけど。

 ……月出里逢(すだちあい)は基本的に『穴』のない打者だけど、それでもある程度の『傾向』はある。歴代の好打者に多く見られる、どちらかと言えば内に強いタイプ。内の球は打者としての本能で捌き、外の球は技で狙って捌く、そういう手合い。

 そんなあの子であっても、やっぱり葵ちゃぁんのカミソリシュートは厳しいみたいねぇ。


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「ストライク!バッターアウト!!」

「スイングアウト!最後は外、154km/hまっすぐ!!月出里、この試合2つ目の三振となってしまいました!!!」


(あのシュートが頭にあるとこれは……)


 そう。これが葵ちゃぁんのカミソリシュートの真価。それ自体の威力ももちろん強力だけど、葵ちゃぁんの本来の投球スタイルと組み合わせることでその真価を十二分に発揮できる。

 葵ちゃぁんのまっすぐは『全くシュートしない』のが特徴。普通の投手のまっすぐは若干シュートするものだから、葵ちゃぁんのまっすぐは相対的に見て『浮き上がるカットボール』のように見える。

 そしてこれに、まっすぐとほぼ同じ投げ方のシュートも加わると、葵ちゃぁんは事実上まっすぐ1つで横の揺さぶりを完結できてしまうことになる。


 シーズンを通して戦う上では、球種は多い方が当然良いけど、逆に球種を増やし過ぎてしまうと、それぞれの球種の投げ方の違いのせいでフォームが乱れて調子を崩すこともありえるし、そうでなくともそれぞれの球種の維持のためにコストを要することになる。この辺は結局トレードオフ。

 そう考えると、できるだけ同じような投げ方で変化の違いをより大きく生み出せる方が有利と言える。それもあのカミソリシュートのメリット。


 ただ逆に、投げ方に違いがなさすぎると、それはそれで投げ分けが難しくなるのも事実。まっすぐとの投げ方の違いが小さすぎるあのカミソリシュートの使い手が40年近く現れなかったのも、投げ方が特別難しいからというよりは、おそらく運用上のリスクが大き過ぎるのが原因。

 何せ投げ方の違いはほぼリリースのタイミングだけ。練習通りに正しく投球フォームを再現したり、腕を強く振ったり、リリースの仕方とかに全神経を集中しながら、ほんの0コンマ数秒のタイミングもってなれば、そりゃ当然投げミスのリスクありあり。どうせシュート投げるなら素直に腕ひねったり、ツーシーム改良して投げた方が良いってなるのが普通。


 あのカミソリシュートを実戦でまともに使えるのは、まさに葵ちゃぁんの才能の賜物。まっすぐに完璧な縦回転を加えられるタイミングを認識できる葵ちゃぁんだからこそ、カミソリシュートが成立するタイミングも認識できる。ゆえに巨大すぎるデメリットを帳消しにして、巨大なメリットを享受できる。


「ウフフフフ……」


 変化球の申し子のような投手ではなく、フォーシームに才能を全振りしたような子が、40年近く誰も扱いきれなかった『幻の変化球』を現代に甦らせるなんて、ほんと野球って面白いわねぇ。


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