第百六十八話 それでも勝利はきちんともたらされる(2/?)
「1回の表、ウッドペッカーズの攻撃。1番レフト、騒速。背番号6」
わたし達がプロになってもう5年目。それだけ経てば、プロ野球で当たり前だった光景が色々変わってたりする。エペタムズの帝国一メンバーで、ずっと1番センターだった騒速さんが今やウッドペッカーズの1番打者。
「ストライク!バッターアウト!!」
「見逃し三振、外いっぱい!」
「ナイピーみつを!」
「今年は1年間借金無しで優勝しようぜ!」
バニーズの今年の開幕先発ローテ。風刃くんと山口さんはみんな予想してた通り。百々(どど)さんが退団したことで空いた4枠を争った結果、常光さん、雨田くん、それと今日の敷島さん、明日の氷室さんで確定。去年の成績は氷室さん以上だった烏丸さんが怪我で出遅れたのもあって、雨田くんは希望通り、クローザーから先発に転向できた。
「セカンド捕って、二塁トス!」
「アウト!」
「一塁へ……」
「アウト!」
「アウト!ゲッツー!」
センターからだからピッチングの細かいところまでは見えなかったけど、とりあえず敷島さんの滑り出しは好調。サウスポーで、球種が豊富で、球威よりも緩急と制球で柔軟に勝負するタイプのピッチャー。
それと、敷島さんはリプのピッチャーだからあんまり活かせる機会がないけど、アルバトロスの葵ちゃんみたいに、アマチュア時代からものすごくバッティングを買われてた人。そういう人って何となくピッチングだとパワーピッチャーのイメージがあるのはきっと幾重さんの影響。わたし自身も一応はそうだったんだけどね……
「1番サード、月出里。背番号25」
「ショート捕って、一塁へ……」
「アウト!」
「2番レフト、相模。背番号69」
「アウト!」
「レフト捕って、これでツーアウト!」
裏の攻撃。最近の逢ちゃんは1打席目からでも打ってたけど、流石に毎日とはいかないよね。
「3番指名打者、十握。背番号34」
十握さんは今のところ指名打者で固定。去年のシーズン終わり頃くらいに大怪我してたけど、別にその影響が残ってるとかじゃなく、単純にリリィさんと金剛さんが開幕二軍スタートになったから。
今のところアウトがほとんどゴロで、打球があんまり上がってない。相変わらず三振はほとんどしてないけど、打率的にも特別調子が良さそうな感じはしない。
「一二塁間痛烈!ライト前!」
「「「「「おおおおお!!!」」」」」
それでも今までの実績があるし、元のレベルが高いからね……
「4番キャッチャー、冬島。背番号8」
「ツーアウトからランナーが出ました。ここで打席に立つのはプロ5年目にして初めて4番を任されました冬島!」
「伊達のくせに大胆なことするよなぁ……」
「いくらリリィとかがおらんからって……」
試合前のスタメン発表でも騒然となってたけど、改めて球場中がざわつく。わたしも正直びっくりした。いくらウッドペッカーズ相手でもって。
(ただ、昨日の試合でも実際振れてるんだよなぁ。全然三振取れねぇし、タイミングも外せねぇし)
(まぁ幸いツーアウト。得点圏にいるわけでもないし、ここは平常心で……)
「!!!ストレート打って……これはレフト騒速下がって……」
「「「「「え……?」」」」」
「は、入りましたホームラン!冬島、第1号!!先制ツーランホームラン!!!」
「「「「「うおおおおおおお!!!」」」」」
逆球……ではあったけど、結果としてインコースの結構身体に近いとこ。それを捌いて、切れずにレフトスタンドまで……
((マジで……!?))
「今ホームイン!2-0!バニーズ、4番抜擢の采配ズバリ!初回から先制!」
「ナイバッチ!」
「すげぇぞ冬島!」
「お前いつの間にあんなバッティングできるようになったんだよ!?」
「いやぁ、僕も鼻が高いよ冬島くん!」
「へへへ……どうもっす」
「「「「「良いぞ良いぞ幸貴!!!」」」」」
「これは4番のバッティングですわ(ご満悦)」
「もう(脚以外に弱点)ないじゃん……」
「今年はフルで冬島見たいなぁ」
「いやでも、キャッチャーやしなぁ」
観客席だけじゃなく、伊達さん含めてベンチのみんなも大盛り上がり。2年連続優勝に向けてせっかく開幕2連勝したのに2連敗で、正直ちょっと焦りみたいなのはみんなあったはず。そういう意味でも、あの一発はきっと大きい。
……逆に言えば、今日もまたわたしが結果を残せなかったら、『雰囲気に呑まれた』とかそういう言い訳が成り立たないってことでもあるけど。
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