第百六十七話 嫌われたがり(1/?)
******視点:乾両刃 [仙台オプティウッドペッカーズ 外野手]******
3月28日。今日はいわゆる移動日……やけど、明日はナイターやし、向こうに向かう前に仙台で調整。
ウチとアルバトロスとの開幕カードは雨天中止を挟んで1勝1敗。まずまずの滑り出し。
やけど鹿籠の『アレ』はなぁ……何と言うか、スイッチヒッターになっててほんま良かったわ。いや、左打席でも『アレ』は十分厄介な代物なんやけど……
「乾さん、打球上がってますねぇ〜」
「どうも」
「やっぱり今年の目標は『2年連続2桁』ですか?」
「そうっすね。それと今年こそOPS.700超え……いい加減"守備の人"は脱却したいっすからねぇ」
「ハハハ!乾さんは"走攻守の人"ですよ!」
休憩の間、そんな感じでデータを取ってくれてるスタッフの人とコミュニケーション。
「にしてもほんま便利っすねぇ、その機械。『HIVE』でしたっけ?」
「ええ。CODE製の……」
「ようそんなんウチのオーナーが許しましたねぇ」
「『許した』というより、『流した』に近いみたいですけどね。上司の話によると……」
「ああ、アレっすか。オーナー、ウチがずっと優勝から遠ざかってるから、不貞腐れてサッカーの方ばっかに注力してるっていう……」
「みたいですね。元々黒字経営第一な人ですし……」
「『HIVE』って練習中だけじゃなくて試合中も使ってるんすよね?それでスポーツ速報アプリにも打球速度とかが出て……」
「そうですね。JPBの決まりで、試合中に取得したデータはJPB公式サイトやスポーツ速報アプリとかに提供することになってるんですが、『HIVE』は取得したデータは全て専用のデータセンターに一旦保管されて、提出の必要がある試合データは全て自動で送られる仕組みになってるんです」
「へぇ〜。でも大丈夫なんすか?試合中のデータはともかく、練習中のもってのは……」
「そういう公開が義務付けられてるデータ以外は自分の球団のデータしか見れないようになってます。そのおかげでサーバ関係の経費も削減できてますし、一軍球場と二軍球場両方に導入して一軍二軍の情報共有がしやすくなってる面もあります。何より『HIVE』自体、機材は無償貸出で利用料も安いですし。ただ……」
「『ただ』?」
「あ、いえ……」
「?」
(ウチだって親会社はIT系の大企業、なのにこんなものに……まぁ最近はウチに限らず、どこの企業もコストカットコストカットで、人件費もバイトや非正規雇用、外国人労働者を増やしまくって削ろうって考えらしいしなぁ。ほんと、世の中に金が巡ってないと『安全性』や『信頼』は後回し後回しだよなぁ)
……ま、設備投資をどうするのとかは俺らの仕事やないわな。俺らがやることはただひたすらに野球。
「そんじゃ、もうちょっとだけお願いします」
「ハイ!」
せやから駄弁ってばっかりってわけにもいかへん。何せ次のカードの相手は……
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夜。移動を終えて、遠征先のホテル。シャワーを浴びて、スマホを手に取る。
「あ、もしもし」
「両刃、お疲れ様。もう着いたの?」
「おう。もう一ッ風呂浴びてのんびりしとる」
電話の相手は遥。まるで待ち構えてたように、ワンコールで応答。
「大丈夫?疲れてへん?うちが今から行ってマッサージでもしよか?」
「いやいや、まだシーズン始まったばっかりやし。遥も明日仕事やろ?」
「有給取ったで。明日は観に行くで、サンジョーフィールドに」
そう。明日からの相手はバニーズ。去年の優勝チームで、幸貴のいるとこ。
「なら幸貴の応援もちょっとはしたってや」
「うん、まぁ……でもうちが予約したん、ウッドペッカーズ側やし……」
「……せやな、うん」
遥と付き合い始めてもう15年くらい。それだけ付き合ってたら、相手のことは大体わかる。けど、たった1つだけ、俺にも全くわからんことはある。『遥が幸貴のことをどう思ってたか』。知ったところで今更やけど……
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