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868回敬遠された月出里逢  作者: 夜半野椿
第一章 フィノム
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第十八話 自分にとって本当に大切なもの(5/6)

 なんやかんやあって、あたしは今下着だけの状態。


「良い?バッティングは『動作』である以上、関節の連動なのよ。今触ってる肩甲骨も、さっき説明した腕を伸ばす上で必要な関節の1つ」

「な、何でこんなことに……」

「『パワーを生み出すタイミング』、それだけを学ぶなら最初からひたすら正しい動作を反復して身体に染み込ませるってのもアリなんだけど、どれだけ時間がかかるか見当がつかないし、他にも学ばなきゃいけないことはいくらでもある。ただ単に『パワーを生み出すタイミング』そのものを覚えるんじゃなく、そのためにどの関節をどのタイミングでどう動かせば良いのかとか、そういうプロセスを細かく分けて認識できるようになれば、他の動作を身体で覚える時にも応用が利くわ。そのために、今はまずあんた自身が、あんたの身体がどういう構造になってるのかを具体的に認識する必要がある」

「あたしの身体の構造……確かに、見た目がクッソ可愛い以外はあんまり意識したことなかったかもです」

「あんた本当に良い性格してるわね……」


 本当ならたとえ同性であっても、あたしの下着姿を見るなんて、お金を請求しても憲法が許してくれるはずだけど、そういうことなら仕方ない。


「それにね、私が教えられるのは『一般的な範囲での正しい動作』だけ。それを『あんたにとって正しい動作』に落とし込んでいく上でも、動作1つ1つを細分化して考えられるようになれば確実に効率化できる。最初はかなり回り道になっちゃうけど、最終的に"世界で一番のスラッガー"になりたいってんなら、こういう土台作りは大事よ」

(あんたにはそれができるのは間違いないからね)

「スタートラインに立つため、ですよね?」

「そういうこと。若王子(わかおうじ)天野(あまの)だけじゃなく、プロのスラッガー達は今この瞬間にも成長してるかもしれない。同じことしてても超えるどころか追いつくのさえ難しいわ」


 最後の最後で追い抜いて、ビリから一着でゴール。底値から始まったあたしのプロ野球人生にはぴったりなのかもね。だけど、そういうのは嫌いじゃない。


「ま、現状課題ばっかで気が滅入っちゃうかもだけど、あんたにはちゃんと大きなアドバンテージがあるから安心なさい。最初にも言った通り、あんたのフィジカルよ。単純だけど、『加速』を生み出すためには必須の土台。技術だけじゃどうしようもない領域よ」

「『加速』……?」

「そう、『加速』。ピッチングもそうだけど、バッティングも『加速』の集大成。『パワーを生み出すタイミングの制御』も、目指すべきところは打球速度に対する『加速』。『インパクトの瞬間の押し込み』も、スイング中でのヘッドスピードへのさらなる『加速』。これからも下半身の使い方とかフォロースルーとかいろんなことを教えていくけど、それらも結局はスイングスピードとか打球速度とかの『加速』の手段。月出里、この前"世界で一番のスラッガー"の条件を言ってたわよね?」

「はい。世界中のどこでだって我儘を正解にできる人だって……」

「私も確かに正解だと思うけど、あくまでそれは『結果的にそうなる』って話。私個人の見解だけど、"世界で一番のスラッガー"ってのは、バッティングにおける全ての『加速』を実現できる者だと思ってるわ」






八縞(やしま)さん、そろそろ練習の時間だよ」


 振り返ると、部屋の扉が開いて、ちょっと淡いピンクの髪の人が立ってた。


「「「…………」」」


 多分トシはあたしと同じくらい。バニーズのロゴ入りTシャツを着てて、身体のラインを見るに多分男の人だと思うけど、男の人にしては声が高いし、やたら綺麗な顔してるから、ショートヘアの女の子だったとしてもおかしくない。球団スタッフ用のカードを首に提げてるから、少なくとも不審者ではないはず。

 まぁどっちにしても、扉を開けると下着姿の超絶美少女がいて、あたし達にとっても突然のことだから、みんなその場で固まってしまった。


「ご……ごめんッッッ!!!!!」


 謎の人は微笑んだまま固まってたけど、急に赤面して、扉を勢いよく閉めて去っていった。やっぱり反応的に男の人だったのかな?正直、割と好みのタイプなんだけど……


「誰だったんですか今の人……?」

「え、えっと……私の知り合いよ……」

(甥っ子の息子っす……)


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 自分にとって本当に大切な人っていつどこで出会えるかなんて誰にもわからないものだけど、まさかこんな形で初めて出会うなんてね。『奇跡』がどうとかなんかよりも、あの時貴方がいなかったら、きっとあたし、立ち向かうことさえできてなかった。

 貴方はあたしにとっての『勇気』そのものだって、あたしはずっと誇り続けたい。


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