第百六十六話 滑り出し(4/?)
「3回の表、ツーアウト二塁。バニーズ、先制のチャンスでこの人に回ってきました、月出里逢!」
「「「「「ちょうちょ!ちょうちょ!」」」」」
二軍で初めて勝負した頃はせいぜい"守備の人"扱いやったのに、偉くなったもんやな。
……さて、あの頃の経験を生かすのなら……
(怖いのはピッチャー返し、ですね)
あれは間違いなく狙ってやった。『去年首位打者になった』っていうバットコントロールの証明がなくとも、直に戦ったウチと京介ならわかる。あの月出里はそういう奴や。お行儀の良い戦い方でも一番になれるけど、お行儀の悪い戦い方も心得とる。実にプロ向きや。
さっきの宇井にぶつけたのは全くわざとやないけど、結果は結果。報復の可能性は考えるべき。
「ボール!」
「まずは外のスライダーから入ってきました!」
そこまではっきり外れたわけやないのに、グリップすら動かんかった。あんまり得意やない外は追い込まれるまでは捨てる算段か……?ウチ自身を狙うにしても、内寄りの球の方がやりやすいやろうしな。シャレやないけど。
(スライダー、続けますか)
せやな。月出里は時々、シフト対策で外の球を逆方向以外にも打つことはあるらしいけど、こちら側のリスクは減らせる。追い込むまではそれで……!?
「!!スライダー打って……ライト線付近、落ちましたヒット!2022年、チーム初ヒットはやはりこの人!」
「「「「「おおおおお!!!」」」」」
「二塁ランナー三塁蹴って一気にホームへ!」
(自慢の長い脚の魅せどころっす!)
(させませんよ……!)
「ライトバックホーム!」
頼むで、万梨阿……!
「……アウトォォォ!!!」
「「「「「おっしゃあああ!!!」」」」」
「刺しましたライトの恋塚!ファインプレー!!」
(流石に今のは無理かな……)
「バニーズ、リクエストはしません!これでスリーアウトチェンジ!しかしこの回、月出里がシーズン初ヒットを記録しました!」
「ほんまええ肩してるわマリア……」
「あとは扇風機がどうにかなったらなぁ……」
「逢さん、申し訳ないっす……」
「気にしないで。あれはしょうがないよ」
あのバッティング……最初からウチのことは狙ってへんかったな。報復狙い読みをさらに読んで……
(わざとじゃないんでしょ?もうそれだけの実力があるんだから。まぁ利用はさせてもらったけど)
月出里がほんの一瞬、ウチの方を見た。『それが正解』と言わんばかりに。
……ウチ自身はプライド捨ててぶつけまくってた頃のことを今でも結構引きずってるのに、そんなウチのことを月出里は認めてくれてるんやな。ウチ以上に……
「2打席目から結果を出してきましたね……今日も1番で打順も回ってきやすいですから、やっぱり要警戒ですね」
「心配するなや京介。逆に燃えてきたわ」
ならご期待に添えるよう、次は完璧に抑えたるわ。
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