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868回敬遠された月出里逢  作者: 夜半野椿
第五章 ホンジ・スキーム
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第百六十五話 譲れないライン(8/8)

******視点:村上憲平(むらかみのりひら) [美浜(みはま)ブッフアルバトロス 監督]******


 3月25日。オープン戦も消化し、早くも今日から2022年ペナントレースが開幕。

 今年の開幕カードはビジター。ウッドペッカーズの本拠地、仙台で。


「集合!」


 試合前の練習を終え、ベンチ前に選手達を集める。野球は結局選手達が戦うもの。俺は試合中に指示を出しはするが、基本的にふんぞり返ってるのがメインの仕事。だからせめて、試合前にできることをやっておく。


「えー……みんな、まずは開幕一軍おめでとう。ここにいる時点で、お前達はプロとしてある程度の立場にあると言って良い。だがもちろん、ここがゴールでは決してない。まだまだ受験生が大学の入試に合格した程度。むしろここからがスタートだ。我々アルバトロスは去年、惜しくも2位。そして、優勝争いをしてたメンツも今日多くいる。ならばやることはわかってるな、横笛(よこぶえ)?」

「ハイ!優勝あるのみです!」

「そうだ。だが容易な道のりでは決してないな。去年の王者であるバニーズはもちろんのこと、今年は目立った離脱者がおらずオープン戦でも好調だったヴァルチャーズもOB・OGの間で優勝候補と目されている。図らずもバニーズは以前はカモにしてた背景があるし、ヴァルチャーズも元々何年も前からアルバトロスにとって仮想敵。どのみち優勝が最優先だとしても、それを争う相手には色々と因縁がある」

「「「「「…………」」」」」

「アルバトロスがヴァルチャーズを仮想敵としたのは、単純にヴァルチャーズがこのリーグで頭一つ抜けた高い潜在能力を有するため、そして選手のみならずスタッフも質量共に優秀であるため。だから俺自身がヴァルチャーズのOBでもあることを利用して向こうの人材を引き抜いたり、そういう人材を介してノウハウを吸収したり、向こうの本拠地を模倣してテラス席を設けることで長打力不足の解消を図った。去年優勝争いできたことでその効果はある程度あったと言えるが……それでもヴァルチャーズにはあってアルバトロスにはないもの……真似るだけじゃどうしようもないものもある。高座(こうざ)、何だと思う?」

「ん〜、『海外脱税のノウハウ』ですかねぇ〜?今年から法規制入って〜、もう真似しようがないみたいですし〜」

「……コホン。そういうことじゃなくて、もっとシンプルに『カネ』だ。お前達もずっと野球をやってきてプロもやってるんだからわかると思うが、チームの強さは金額にある程度は比例する。そして昨今の帝国は不景気で経済格差が大きく、球界じゃ今のところ育成枠の人数に制限がない。つまり、選手の人件費などさえクリアできれば実質無限に選手を保有できる。育成の上手い下手に関係なく、選手が多いほど良い選手が輩出されやすいのは物理的に当然の話。この時点で、12球団はお題目の上では平等でも、スタートラインは決して平等ではない。おまけにスポーツ速報アプリに加え、最近は『HIVE(ハイブ)』を俺達始め多くの球団が利用。球界のインフラをヴァルチャーズに実質握られ、資本主義的な観点で言えば、俺達はヴァルチャーズにプロ野球を『させていただいている』ような立場と言える。リプでヴァルチャーズだけがリコのどこかしらの球団を超える集客力があるということは、観客達もヴァルチャーズをリプの中心と見なしている、ということでもある。そうなると必然的に選手単位でも、人気や知名度の面で"主役"と"脇役"のような格差が生じる」

「「「「「…………」」」」」


 ……昨今の若者は昔と比べて大人しいとよく言われるが、それでも思うところがあるのは選手達の表情でわかる。

 そうだ、そういうのを俺は望んでた。


「それで良い。今のを聞いてみじめで悔しいと思える時点でお前達には見込みがある。勝者になる見込みがな。我々が普段使ってるパソコンやスマホのOSもほぼほぼアメリカ製。だが、日本はアメリカに何もかも劣ってる国では断じてないだろう?プロ野球は客商売で、自由競争の世の中なんだから、自分達の得意なことで戦って自分達なりにシェアを拡げれば良いのだ。だから本気でその悔しさを払拭したいのなら、その不利な条件下で野球という本領で勝つことで価値を創出し、ヴァルチャーズ……CODEは、客を呼んでくれたり、身銭を切ってインフラ周りを他の球団に用意してくれる"都合の良い財布"に(おとし)める。それ以上の方法はないだろう?」

「「「「「……!」」」」」

鹿籠(こごもり)

「ひゃ!?ひゃい!」

「今日のこの開幕戦で鹿籠を先発に選んだのは、去年の先発陣の中で最も優れた成績を挙げたこととか、この春に新たな武器を手に入れてパワーアップしたからというだけではない。鹿籠が投手として、野球選手として、譲れないラインを持ってる奴だと見込んでのことでもある。最高のゲームメイクを期待してるぞ」

「あああ、ありがとうごじゃいます!ウェヒッ、ウェヒヒヒヒ……」


 こういう精神論だけじゃなく、勝算もある。真野(まの)が結局開幕に間に合わなかったのが痛かったくらいで、戦力は概ね問題なく揃ってるしな。

 ただ、やはり総合力ではバニーズ・ヴァルチャーズに敵わないのは事実だから、良い感じに潰し合ってくれることを期待しつつ、ローテの組み方とか細かい部分で差を付けていくしかないだろうな。幸い、ヴァルチャーズは今年から新監督だし。

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