第百六十五話 譲れないライン(5/?)
******視点:鹿籠葵******
2月20日。いよいよ今年初めての対外戦。
「1回の表、ペンギンズの攻撃。1番センター、小林。背番号9」
「右バッターボックスに入ります小林。昨年ついにブレイクを果たし、初の規定到達。今シーズンも走攻守全面での活躍が期待されています」
相手は去年の帝国一の球団。自慢の打線も去年とそんなに変わらない顔ぶれ。
「!!痛烈な当たり!」
「アウト!」
「しかしこれはレフト正面のライナー!」
「ああ、惜しい……!」
「いきなり振ってくるなぁ……」
危ない危ない……いきなり甘いまっすぐ投げちゃった。
「これはファースト正面へのゴロ……」
「アウト!」
……まだ少し、イメージよりも球が左打者のインコースの方に行っちゃうかな?
「ストライク!バッターアウト!!」
「膝下いっぱい!見逃し三振ッ!!これでスリーアウトチェンジ!!!」
(今のがインコースギリギリに入ってまうんか……ほんま、イメージよりもかなり外にいく感じやな)
「ナイピー葵姉貴!」
「この回の最速は146km/h……スピードはいつもよかは出てねぇな……」
「まぁ普段戦ってないリコ相手なら余裕やろ」
とりあえず初回の内にまっすぐの修正はできた。ちょっとチェンジアップが上手く決まらないけど、そこはおいおい修正していく。
……今日は最長でも多分打者2巡程度。『アレ』は温存で良いよね?
「1回の裏、アルバトロスの攻撃。1番センター、高座。背番号4」
「同じく右バッターボックスに入ります、プロ9年目の高座。昨シーズンは自身初の全試合出場を果たし、バニーズの月出里と並ぶ169安打で最多安打のタイトルを獲得。チームの優勝争いに最後まで貢献し続けました」
今年も優勝争いできるかどうかは、割と愛生さん次第なとこがあるよね。正直、ウチそんなに打線強くないし。
「ストライク!バッターアウト!!」
「三振ッ!最後は落としました!」
「ドンマイドンマイ!」
「は〜い」
……愛生さん、いつもと変わらず飄々としてるけど、もしかして調子が悪い?愛生さんは三振も四球も多くないタイプ。早いカウントで上手く前に飛ばす巧打者。あんな形で打ち取られるのは珍しい。
「アウト!」
「ボール!フォアボール!」
「4番ファースト、横笛。背番号51」
「ツーアウトからランナーが出て、打席にはプロ4年目の横笛。昨シーズンは打率こそほぼ2割ジャストに留まったものの、9本塁打と自慢の長打力を発揮。チームの貴重な和製大砲として将来を期待されています」
真野くんも頑張ってるんだけど、頑張りすぎちゃってキャンプの途中で怪我しちゃったからね……横笛さんももちろん頑張ってるけど。
(ほんまは幾重さんみたいにピッチャーもやりたいけど、去年から積み重ねて手に入れた野手レギュラー挑戦のチャンス。今年は大人しく野手に専念して、デッカいの打ちまくるで〜……!)
「ストライク!バッターアウト!!」
(……紙一重やな、うん)
「デブネキェ……」
「まぁしゃーない。切り替えてけ」
打線やバックは結局のところ、野手の人達や監督がどうにかするとして、ここからがわたしにとっての本番。
「2回の表、ペンギンズの攻撃。4番サード、猪戸。背番号55」
あんまり打者との勝負は意識しない方だと思うけど、やっぱり月出里さんや猪戸くんはちょっと意識しちゃうよね。同年代で、もしかしたら野手として争ってたかもしれない相手なんだから。




