表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
868回敬遠された月出里逢  作者: 夜半野椿
第五章 ホンジ・スキーム
1067/1137

第百六十五話 譲れないライン(3/?)

******視点:若王子撫子(わかおうじなでしこ) [大宮桜幕(おおみやおうまく)ビリオンズ 捕手]******


 2月16日。春季キャンプA班、第四クール1日目。

 もちろん、今のうちらのメインのお仕事は練習やけど、プロ野球は客商売でもある。そしてデカい金が動くから、色んな業界の人間との付き合いも必要。


「では次の質問ですが……捕手視点でここまでのキャンプを振り返ってみて、今年のルーキーで最も注目の投手は誰でしょうか?」

「やはりドラいt……ドラフト1位ルーキーの置貝(おきがい)投手でしょうか。まっすぐに力があって、それでいて球種も豊富。中でもブレーキの効いたチェンジアップが魅力的ですわ。ウt……我が球団では左投手が不足しておりますし、即戦力として期待しております」

(雑誌のインタビューなんだから、無理してキャラ作らなくても良いのになぁ……)


 こういう仕事も、めんどいけど断るに断れへん。


「ところで若王子(わかおうじ)選手は今シーズンの間にFA権を取得する見込みですが、今後の去就についてはいかがお考えでしょうか?」

「それに関しては今のところは何とも……現状はとにかくチームの優勝が第一ですから」

(やっぱ答えてくれないよね……まぁ想定内)


 それと、個人成績もな。ファンから"隔年型"って言われてるけど、プロ入って以来ずっとそんな感じやし、うちやってその自覚は正直ある。去年は『山』の年で、バニーズの"ちょうちょ"、それと十握(とつか)に次ぐくらいの成績やったけど、今年は『谷』の年。かと言って、成績が落ちる可能性が高いからって、何も手を打たへんのはうちにとっても何の得もあらへん。

 そして、FAについては決めかねてる……ってのは嘘やない。個人成績を求めるのは就活の意味合いもある。あとやっぱり世間で言われてる通り、ホーム球場がなぁ……ほんま、金持ち時代に建て直してくれてたらなぁ……

 でもお(ねえ)とか雲雀(ひばり)のいるこの球団が嫌いなわけやないし、うちなりに恩義も感じてる。2年連続で優勝はしたけど帝シリ行きもヴァルチャーズに2年連続で()られて、そういう『やり残し』もある。引退後のことも考えたらほんまに難しい問題。


「それでは、本日はお時間いただきありがとうございました」

「ええ。ごきげんよう」


 無難にインタビューを消化して、ブルペンへ。


「あ、若王子さんお疲れ様です。もうインタビュー終わりましたか?」

「うん。そんじゃ、約束通りちょっと捕ったろか」

「ありがとうございます」


 さっさと防具を付けて、待たせてた瀬長(せなが)と軽くキャッチボールから。


 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・


「それでは今日はこれくらいで」

「ん?もうええんか?」

「ええ。明日紅白戦で登板する予定ですので」

「おっ、ようやく先発か?」

「残念ながら……」

「そうか」


 ルーキーくんにももちろん期待してるけど、やっぱりウチで一番強い球投げてるの瀬長(コイツ)やし、やらせたったらええのになぁ。


「まぁ与えられた役割を全うしてチームを勝たせるのが()んの仕事ですから」


 こんなこと言ってるけど、あんまり不満溜めさせたら後足で砂かけられるで。ただでさえFAで一番逃げられてきた実績のあるチームなんやし。


「そう言やそろそろ他の球団も練習試合とかし始める頃やな」

「ですね。ネットだと20日のアルバトロスとペンギンズの一戦が注目されてますね」

「何でや?」

月出里(すだち)さんに並ぶ99年世代の星……"猪"と"鹿"がぶつかり合うってことで」

「あー、なるほどな。せやったら同い年として瀬長もウカウカしてられへんな?」

「いえ、別に」

「やっぱ"ちょうちょ"対策が最優先か?去年も打たれてたし」

「個人での勝負にあまり興味がないということですよ。"良い投手"というのは、"より点を取られない投手"。特定の打者1人がどうしても対処できないのであれば、逃げれば良いんです。それでトータルではバニーズを抑えられてましたから」

「うーん、"さとり世代"やなぁ」

「そうやって感情をコントロールし、ベストピッチングを再現し続けられるかどうかも、"良い投手"の資質だと()んは思ってます」


 つまり、"ちょうちょ"ちゃんに勝てない悔しさが内心全くないわけやない……ってことやな。ええやん、男の子やん。それくらいのプライドがなきゃ、高校出て数年で一軍戦力にはなれへんわな。


 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ