第百六十四話 方向性(2/?)
******視点:月出里逢******
初回……第1打席はあたしも十握さんも凡退。
「ストライーク!」
「うほぉぉぉっ!154km/h出たぞ!!」
「流石やメガネ!」
(とりあえず風刃よりもスピードは出せてる……あとはこれを先発でも維持できるかどうか……)
主力の立場で色々優遇してもらってるけど、もちろん今日の練習はあたし達だけの独壇場じゃない。『表』の攻撃では雨田くんがマウンドに立って、今年の先発転向に向けてアピールと調整を続けてる。打席に立ってる人達も然り。
「ボール!」
「ボール!」
(先発転向用に再度挑戦してるナックルカーブ……まだ上手く入ってくれないな。やっぱり先発でももう少し球種を絞るべきか……
「ショート!」
「アウト!」
「ナイスプレー!」
「流石だぜ相沢!」
朱美ちゃんは体調不良で出遅れて、今は二軍キャンプで調整中。あたしの隣でショートを守るのは相沢さん、『裏』の攻撃の時はルーキーの黒潮くんが守ってる。
「アウト!」
「ふぅ……」
(去年散々投げたまっすぐとスライダーはまぁ大丈夫……かな?)
「ナイピーナイピー雨田!」
「百々(どど)の穴、しっかり埋めてくれや!」
ちょっとボール先行気味だったけど、雨田くんも神楽ちゃんに続いて三凡。
「ちょうちょ!今度こそ打てや!」
「風刃くぅん!そんな"メスゴリラ"一捻りにしちゃって!」
やかましい。誰が"メスゴリラ"じゃ。
……それはともかく、さっきの打席はまっすぐすらしっかり捉えられなかった。多分そうくるってわかってたのに。やっぱりまだまだ実戦感覚が取り戻せてない。とりあえずこの打席でまっすぐだけなら合わせられるくらいまでは持っていきたいけど……!?
「ストライーク!」
「「「「「おおおおお!!!」」」」」
カーブ……!
(今年重点的に磨いてる球種。ちょっと浮いたけど、流石の月出里さんでもまっすぐ張ってたら手が出ねーよな)
(くそッ、ボクはカーブ系がなかなか習得できないってのに当てつけがましい……!)
……ほんと嫌になるよね。ただでさえまっすぐがほぼ常に150超えてくるのに、年々どんどん手札を増やしてきて……最初はスライダー、2年目にカットボール、去年はスプリット、そして今年はコレってことかな?まぁカーブは去年から投げてはいたけど……
「ストライーク!」
「今度は空振った!」
「うーん、キレッキレやなぁ……」
去年のカーブはサードの方から見てる分にはそこまで特別な球って感じじゃなくて、緩急を付けられるだけでも十分使い物になるってくらいの代物だったけど、このカーブは"あの変態"が投げてたのに似てる。最初失投かと思うくらいリリースの瞬間に上に打ち上がったかと思ったら、バッターボックス前くらいから急降下してくるあの軌道……
(縦の変化に非常に秀でたこのトラッキングデータ……メジャーの現役最強左腕も得意としてる12-6カーブってやつだな。この球については第三クールの時にもデータを取ってたが、これほどの代物を日本で見られるとは……)
これ単体でもめんどくさいけど、それ以上に、この軌道が頭にあると……
「ストライク!バッターアウト!!」
(振り遅れてくれるよなぁ、やっぱり)
まっすぐも、どうにかチップするので精一杯。
「ちょうちょから三振……」
「やっぱパネェな、えいりーん……」
「ここまでで投げてるの、まっすぐとスプリットとあのカーブだけか……」
あたしに対してはまっすぐとカーブだけ。まだスプリットとカットボールにツーシーム、そして投げてくるかは微妙だけどスライダーもある。あと3打席で捉えられるか……打率4割を目指す以上は最低でもヒット2本は打ちたいんだけどね。
さっきの凡退を生かすためにも次の打席に早く立ちたいけど、ルールだから仕方ない。実戦だってこんなもんだし。
「346!仇取ったれよ!」
「ホームランホームラン十握!」
十握さんの1打席目は三振。あたしと同じようにまっすぐに差し込まれ気味で追い込まれて、最後にスプリットを落とされてって流れ。
「ボール!」
「ファール!」
(カーブは月出里さん相手に見せたし、おれとしても『試し』は十分。まだ2打席目だし、ここも……)
(まっすぐだよね?)
「……!」
「ライト!」
「「「「「おおおおお!!!」」」」」
少し浮いた内寄りのまっすぐ。やっぱりまだ少し差し込まれ気味だけど、ライトの前にきちんと落とした。
「ナイバッチ!」
「346がちょうちょより先に出塁したぞ!」
(あっちゃ〜、狙われたなぁ……)
(俺も出塁率にこだわりはあるけど、風刃くん相手に愚直に待ってたってカウントを悪くするだけ。読みが当たって少しでも打てそうだと思ったら打ちにいくのが正解、ってね)
やっぱり良いバッター。あたしも負けてられない。
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