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868回敬遠された月出里逢  作者: 夜半野椿
第五章 ホンジ・スキーム
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第百六十三話 プライドの問題(4/?)

******視点:梨木真守(なしきまもる)******


 2月10日。第三クール1日目。一軍キャンプのブルペン。


「次、スライダーいくっすよ!」

「お、おう……ッ!?」


 風刃(かざと)さんはすでにキレッキレの球を披露。

 受けてるキャッチャーの背番号は44。背丈はプロとして平均くらいながら、長打が期待できそうな堂々たる体格。あれは去年ドラ2指名された大卒ルーキーの新穂功(あらほいさお)さん。強打のキャッチャーとして評価されてて、伊達(だて)さん引退以降のバニーズにとってピンズドと言える新戦力。もちろんキャッチャーとしても強肩を売りにしてるし、決して打つだけの選手ではないはずだけど、流石にウチのエースのとっておきを初見で捕るのは荷が重かったのか後逸。


「お前、ほんとエグい球投げるようになったな……」

「ちょっと(いさお)さーん、しっかりして下さいよ?おれまだ完全には仕上がってないんすから。一軍でやるんならゴールキーパーくらいはきちんとできなきゃですよ?」

「そ、そうだな……」


 ……?新穂(あらほ)さんの方が年上とは言え、チームのエースとルーキーの間とは思えないくらい砕けた会話。というか妙に親しげな感じ……


「あ、梨木(なしき)さん!お疲れ様です!」

「お疲れ様です。順調な仕上がりですね」

「へへっ。第四クールからライブBPっすからね」

「やはりそういうことですか……それにしても風刃さん、ルーキーの人ともすぐに打ち解けられるのもエースの器というやつですかね?」

「ああ……別にそういうのじゃないっすよ?功さんとは昔馴染みなんすよ。実家がお隣なんで」

「え……!?そうなんですか……?」

鋭利(えいり)のいるバニーズに指名された時は俺もビックリでしたよ……まぁそういうことでこれからは鋭利(コイツ)と比較されたりで色々あるかもしれませんけど、冬島(ふゆしま)さんから正捕手奪って、タイトルの1個くらいは獲れるように頑張りますよ」


 同じ球団で同じ学校出身とかそういうのはたまに聞くけど、そこまでご近所同士というのも珍しい……ファンとしてはなかなか耳寄りな情報。


真守(マモル)。あれが例の風刃(カザト)か」

「そうだよ。我がバニーズのエース」

「去年のデータもさることながら、今年ここまで計測した限りでも他の投手とは一線を画す数字だ。現時点でもあらゆる球種が高水準に仕上がってる。特にスプリッターのコマンドとスライダーの変化が素晴らしい」

「わかるものなんだね」

「数字は嘘を()かん。確かな数字を叩き出せる者こそ強者だし、その数字にも常に確かな根拠がある。野球に『奇跡』とか『非科学』とかそんなものはありようがない。そんなふうに見えるものがあったとしても、それらを論理的に紐解き、『科学』に落とし込むのがオレ達の務めだ」

「情緒がないね……同じデータ屋が言うのも何だけど」


「あ、真守(まもる)ちゃん!」

有川(ありかわ)ァ!練習はどうした!?」

「What's(ワッツ)!?ど、どうした真守(マモル)!!?」

「あ、すまない……」


 有川に突然話しかけられて、嬉しさのあまりテンションが一気に沸騰してしまった。


恵人(けいと)ちゃんが投げ終えたからワタクシメも小休止中ですよぉ。ところで、そちらの方は確か……」

「ああ。今年からデータ戦略部に入ったアヴリルだよ」

「よろしく頼む」

「でゅふふ……これはどうもどうも。ところでアヴリルちゃん」

「何だ?」

「さっき真守ちゃんのこと、何て呼びました?」

「……?真守(マモル)だが……?」

「アヴリルちゃんは海外の方なのでご存知ないかもしれませんが、日本では男女の間で下の名前……ファーストネームかつ呼び捨てで呼び合うのは、一般的には特別な仲の証なんですよぉ?例えば『恋人同士』とかそういう……アヴリルちゃんは真守ちゃんに対してそういう下ごk……目論見があるんですかぁ……?」

「「!?」」


 いつものねっとりとした口調だけど、意外とある背丈を生かして小柄なアヴリルを威圧するように、妙な迫力を(かも)し出す有川。こんな有川は僕も見たことがない……


「い……いや、そんなつもりはないが……」

「なら、ちょーっと改めた方が良いかもしれませんねぇ?アヴリルちゃん、とっても可憐な方ですし、あらぬ誤解を生まないためにも……たとえば"泥棒猫"とか……」

「そ、そうだな。郷に入っては、と言うしな……梨木(ナシキ)……これで良いか?」

「ええ、ええ。わかっていただけたならそれで良いんですよぉ。でゅふふふ……」


 何が逆鱗に触れたのかよくわからなかったけど、とにかく、いつもの有川に戻った……


「有川!次、鍛冶屋(かじや)のも捕ってやってくれ!」

「はぁい、今行きまぁす」


 ……有川は去年、キャッチャーとしての出場機会が例年よりも多かった。今年は新穂さんが入ってきたからどうなるかはわからないけど、少なくともスーパーサブとしてなら一軍の立場は安泰と言えるだろう。そしてこれからも……そうなるとひょっとしたら、2枚目の俳優とか売れっ子のアイドルとかとの熱愛、なんてことも……

 僕はまだまだ彼女ほどの選手に釣り合う立場じゃないし、そもそも異性として振り向いてもらえるかもわからない。今年のデータ重視のチーム戦略で成功して、もっと上に上り詰めなきゃな……


「随分好かれてるんだな、梨木(ナシキ)

「……?何の話だい?」

「!?いや、別に……」

「???」

(目の前で100mphの牽制球ブン投げてたのに、何で気付いてないんだ梨木(コイツ)……?)


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