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868回敬遠された月出里逢  作者: 夜半野椿
第一章 フィノム
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第十八話 自分にとって本当に大切なもの(2/6)

「おい雨田(あまた)。この辺まだ荒れてんぞ」

「う、うるさいな!ボクなりに効率良くやってるんだよ!」

「お前そんなこと言ってさっきの掃除の時も雑だったじゃねぇか。ウチの神社なら即リテイクだぞ」


 ……やっぱり夏樹(なつき)とはどうしても気が合わないな。


「まぁまぁ神楽(かぐら)ちゃん。雨田くん、わたしも手伝うから、もうちょっと頑張ろうよ」

「そ、そうだな……秋崎(あきざき)が言うなら……」

「……なぁ、雨田。良いこと教えてやんよ。今の時代な、夫婦共働きが当たり前だから、男も掃除くらいできなきゃ女子から甲斐性なし扱いされるんだぜ〜?」

「な……!?ど、どういう意味だ!!?」

「何だろうねぇ〜?ケケケケケ……」


 これもまた勝手な解釈かもしれないけど、秋崎の口ぶりからしても、多分『仲良くする』こと自体よりも、そうしようと努力すること、そしてその先にあるものを手に入れることが、きっと償いの証なんだと思う。

 だからまぁ……気に入らないけど、お前とは程よく付き合っていってやるよ。


(神楽ちゃんが男の人だと、雨田くんとで捗るのになぁ……)

「……ねぇ神楽ちゃん。男装とか興味ない?」

「え……?何言ってんだお前……?」


 ボクにもよくわからないけど、それでもこれから理解していけば良い。

 こうやってトシの近い他人に強く興味を持てたのなんて中学の頃以来か。まぁあの時は一瞬で失望させられたけど。


「おいお前ら。サボってんじゃねぇよ」

「あ、すんません……」


 この辺の整備を任されてるのはボクと秋崎と夏樹、松村(まつむら)さんと有川(ありかわ)さん……そして何故か早乙女(さおとめ)さんと相模(さがみ)さん。


「あの人達、何で懲罰に混ざってんだ……?」

「早乙女さんと相模さんは紅組だったし、試合にも出てたのにね……」


 それだけじゃない。ボクは初日から一軍キャンプにいて、その後は白組メンバーとしか練習してないからあの人達のことはあまりよく知らないけど、確かいつも財前(ざいぜん)さんと桜井(さくらい)さんとの4人で行動してたはず。なのに今日はあの2人だけ。

 まぁ手伝ってくれるの自体はありがたいことではあるけど……


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******視点:早乙女千代里(さおとめちより)******


 昨日の夜の話。


「は?何だそれ?」

「ですから、その……明日からの白組の懲罰労働、俺と千代里(ちより)も参加しようと思って……」

「それはわかるけど……何たってそんなことするのよ?馬鹿馬鹿しい……」

「いや、まぁそうなんだけどさ……」


 ま、やっぱ財前さんと(まり)ならこう言うか……


「昨日の試合……『紅組が勝った』とか、『白組がわざと負けた』とか、色々解釈できると思うんすよ。だけど少なくとも、『俺達が勝った』わけじゃない。なのに白組(アイツら)だけが罰を受けるようじゃ、一生このままでいるような気がして……」

「何と言うか……『悔しい』って気持ちを独り占めされてるって言うか、あーしらには罰を受けるほどの資格すらないって言われてるような気がするって言うか……」

「……あのな、昨日の試合はその前の紅白戦よりも白組が善戦したのは確かだ。その理由もまぁ、あのジジィが言ってたこともある程度は正しいんだろうよ」

「そこは私もそう思うわよ。『チームプレー』とかそういうのであと一歩のとこまでいったからこそ、最後の最後に月出里(あのブス)が勝手なことして負けたんだからね」

「けどな、どれだけ綺麗事を並べようが、結局最後にものを言うのは『選手個人個人の質』と、『その質が優れてる選手をどれだけ揃えてるか』だよ。今の時代は怪我や不調でなかなかベストオーダーが揃わないなんてことはザラにある。だからこそ、質も量も揃ってるヴァルチャーズとかスティングレイが強いんだよ。だから、アイツらが罰を受けてる間に差を付けて、一軍の席に滑り込まなきゃむしろ損だぜ?」

「そうですよね財前さん!いつも通りにしてれば、私達にだってチャンスは来ますよね!!」


 試合中に頭使わないのに、サボる口実のためなら……なんて、いつの間にあーしらはこうなっちまったんだろうねー……


「……『今から』差を付けなきゃいけねぇからっすよ」

「「……!!?」」

伊達(だて)さんとか天野(あのゴリラ)とかはともかく、他の連中はあーしらよりもキャリアが短いのに、『差が付いてる』んじゃなく『差を付けなきゃいけねー』から、何とかしねーといけねーって、そう思うんすよ」


 同じ穴の狢だからこそ、どう答えるかはわかるし、どう返せば良いかもわかる。本当を言えば、たとえ必要であってもダチが傷付くようなことは言いたくねーんだけど……


「そ……それは……」

「……去年からあのジジィやオーナーが来て、色々変わっちまったじゃねぇか。改めてオレ達が評価されれば……」

「そうあってほしいと、俺達だって思ってるっすよ。だから、『馬鹿やってる』って思ってもらって良いっすよ」

「あーしらだって、結局のとこ『この4人で一軍で活躍したい』ってのは変わってませんから。こうでもしなきゃ反省もできねーんだって、そう思ってもらったって良いっすよ」

「……ふん、勝手にしろよ」


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 財前さん達の順位付けがどうなってるのかはわからねーけど、少なくともあーしにとって一番悔しいのは、単に実力不足とかそんなんじゃなく、あーしらを裏切った徳田(アイツ)に負けたこと。あれは偶然なんかじゃねーし、そう思ってる内はきっと負けっぱなしだと思う。

 あーしらはあくまで財前さんと鞠を見捨てたりしねぇ。その上で徳田(アイツ)に勝てなきゃ、あーしらの安いプライドは取り戻せねーままなんだよ。


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