第百六十二話(第四章最終回) 川越弘平の選択(1/?)
******視点:月出里逢******
12月19日。のりちゃんと丹波さんの未来も、そしてあのクソ野郎の頭部も明るかった……
「ぷふっwww」
「ど、どうしたの逢!?」
「い、いや、何でも……ぷくくっw」
(もしかしてまだ昨日のこと……)
同窓会の次の日。優輝と一緒に母校の水無月高へ。
「すみません。川越先生とお約束をした月出里と付き添いの者なんですが……」
「はい。川越先生の方に今確認しますね」
守衛さんが受話器を取って、多分職員室の方へ電話。
あたしが生まれる少し前はこんなめんどくさいことしなくても学校なんて簡単に出入りできて防犯なんてガバガバで、お母さんもそのせいで苦労したらしいけど、今はこうやって普通の公立校にもこういう人がいて、まぁ個人的には良い時代になったと思う。あたしみたいにクッソ可愛いと特にね。
「確認取れました。どうぞ中へ」
「ありがとうございます」
卒業してもう4年だけど、学校の中は特に変わってない。犬に見える壁のシミとかも。
「あ……ごめん。ちょっとトイレ」
「うん。職員室ここからまっすぐ行ったとこだから。あたし先に行っとくね」
日曜日の校内の廊下。登校してる生徒もほとんど部室とか体育館とかグラウンドとかだから誰ともすれ違わない。サインとか求められることもないから楽……!?
「……叶恵さん……!?」
「!?月出里さん……!」
職員室の前まで来ると、ちょうど扉が開いて女の人が出てきた。スーツ姿でカバンを背負った人。中学の頃のヤンチャ仲間の叶恵さん。
希望通り先生になったのは聞いてたけど、昨日に続いて今日もこんな再開を果たすとは……
「勤め先ここだったんですか?」
「あ、えっと……転任したのは今年からですね。月出里さんこそどうしたんですか?ここが母校なのは知ってますけど……」
「えっと、練習のために場所を借りようと思って……」
「ああ、なるほど……あ、テレビ観ましたよ。バニーズ優勝とMVPおめでとうございます」
「どうもです……"三田先生"って呼んだ方が良いですかね?」
「す、洲本のままです!カズくんはまだ就職が決まったばかりですし……」
「ってことはもうそこまで視野には入れてるんですね。へー」
「うう……」
あたしと同い年だけど、あたしに目もくれず年上のお姉さんに夢中だった三田くん。長くてプリンみたいな金髪を急に黒く染めて短くしたけど、まだ真面目が続いてるみたいだね。
「って言うか叶恵さん、日曜に学校に来てるってことは何かの部の顧問やってるんですか?」
「ふふふ……そうです。これですよ」
「……!」
カバンから取り出したのは、帯で縛った空手の道着。取り出すために手に持った帯の色は黒。
「もう教えられるくらいになっちゃったんですね。通信教育から始めたのに」
「やり始めたら夢中になる性分ですから。これからは私が生徒を守っていきますよ!」
「……何か、時間の流れってすごいですね」
「そうですね。月出里さんも市川さんもすっかりスターになって……」
「有名かどうかなんて関係ないですよ。みんなそれぞれ自分のやりたいことやれてるんですから」
「……そうですね。カズくん達と出逢えて、こうやって無事に先生にもなれて。月出里さんのおかげですね」
「勉強教えるのも良い経験になったんじゃないですか?あたし相当バカでしたし」
「あ、あはは……かもしれませんね……」
「そこは否定してくださいよ」
「逢!お待たせ!」
男子トイレから出てきて、あたしの方に手を振りながら歩いてくる優輝。
「……月出里さんももしかして、呼び名が変わる予定ですか?」
「いえ、色々あってあたしの方になると思います」
「ってことはそういう人なんですね?」
「……内緒にしといてくださいね?」
「ふふっ、もちろんですよ」
「せんせー!早く早くー!」
反対側の廊下から、道着を着てこっちに手を振る何人かの女の子。
「それじゃそろそろ……」
「ええ。また機会があれば」
道着をカバンの中に戻して、女の子達の方へ向かっていく叶恵さん。
また会えて良かった。近況が知れたのも良いことだし、寒い中での練習も今の気分なら頑張れそう。




