第百六十一話 ハッピーエンドはまだ先(2/?)
「らっしゃいませー」
「あ、真輻寺学園中等部2014年度卒業生の同窓会参加者なんですけど……」
「はい、ではこちらへー。そちらのお客様はー?」
「あ、おれは別です」
「1名様でしょうかー?」
「はい」
「ではこちらのカウンター席へどうぞー」
「じゃあちょっと行ってくるね。のりちゃんと話をするくらいで長居するつもりはないから」
「うん。気をつけてね」
店は割と広いけどワンフロア。逢が向かったお座敷の席はカウンター席から目の届く範囲。
「ご注文は?」
「えっと……それじゃあ焼き鳥の盛り合わせとオレンジジュースで」
「かしこまりっ!」
「おうおう姉ちゃん、せっかく居酒屋に来てるのに飲まねェのかい?この後デートしてくれるんならおっちゃんが一杯奢ってやるぜ?」
「あ、あはは。今日車で来てるんで……あと"姉ちゃん"じゃなくて"兄ちゃん"です……」
「うぉっ、マジか……今流行りの『男の娘』とかって奴かい?」
「いや、そういうつもりじゃないんですけど……」
「……あ。さっきのデート云々の話、ウチのカミさんには内緒にしててくれよな?」
「は、はい……」
「ハハハ!ありがとな、可愛い顔の兄ちゃん!」
隣の席の酔っ払いのおっちゃんを適当にあしらいつつ、逢を見守る。
「のりちゃん」
「あ……逢ちゃん!」
先に到着して、他の友達と歓談していた長身の女の人。逢が声をかけると、すぐに席を立って逢の方へ駆け寄る。
「プロ入りおめでとう」
「ありがとう!逢ちゃんもバニーズ優勝とMVPおめでとう!……すっかり先越されちゃったね」
「あたしはちょっと運が良かっただけだよ。のりちゃんも絶対プロでもやれるよ」
「ふふっ、ありがと!」
「のりちゃんが入るの、スティングレイだよね?」
「うん。練習が厳しいとこって聞いてるけど……」
「プロはどこでも大体そうだよ。ってか嫌でも自分に厳しくしなきゃレギュラーなんかなかなかなれないよ」
「あはは……そうだよね。逢ちゃんでも1年目はほぼほぼ二軍だったもんね」
「まぁおかげで今くらいの立場になれたんだけどね」
「逢ちゃんくらいになると、別リーグでもスティングレイの人に知り合いとかいたりするの?」
「一番仲良くしてもらってるのはメスゴ……綿津見さんかな?来年からメジャーだからのりちゃんとは入れ替わりになるはずだけど。あとオリンピックで一緒だった千石さんとか……」
「うわっ、すご……どっちもスーパースターじゃん……」
「え……!?今日って月出里が来るって話だったのかよ……!!?」
「おいィ!言えよ幹事!」
「中学の頃と見た目ほとんど変わってねぇな」
「もう年俸2億5000万だったっけ?やばくね?」
「俺らも来年から働くけど新卒だから300もいかねぇだろうなぁ」
「俺らじゃ将来頑張っても1000か2000くらいだろうなぁ」
「くっそぉ、逆玉乗りてぇなぁ……」
純粋に旧友との再会を喜び合う逢と金子さんだけど、周りはどこか邪な理由でザワついてる。一応様子を見に来て良かったかも。このくらいなら許容範囲だけど。
「んー?あのホ■ミスライムみたいな髪型の別嬪さん、どっかで見たことあるなぁ……?確かプロ野球の……」
「ぷふっ!ほ、ホ■ミスライム……い、いや!こんなとこにそんなすごい人いるわけないじゃないですか!?」
「ハハハ、そうだな!深谷はネギならいくらでも生えるがプロ野球選手なんてそうそうなァ!」
「あ、あはは……」
酔っ払い1人言いくるめるのも苦労するくらい有名になったよね、ほんと……
しかしホ■ミスライム……言われてみれば確かに……正直ちょっとツボに入った。
「よォ。ようやく来てくれたんだなァ、月出里。せっかくアタシが毎年招待状出してやってたのによォ……」
「「「……!」」」
金子さんほどじゃないけど長身でちょっと派手目な格好の女の人が逢に近づく。
「毎年毎年、資源の無駄遣いご苦労様」
「……言うようになったなァ。あんなにヘタレだったのによォ……」
「あんたは変わってないね。お嬢様気取って育ちがどうとか言うくせに下品なままで」
「てめェ……"成金"に戻れたからって調子こいてンじゃねェぞ?」
「お、おいアザミ……」
「やめなよ今更になって……」
「またあんなことになったら……」
「あ、逢ちゃん……」
……一昨日の話に出てた、逢をいじめてた主犯格の人かな?
例の騒ぎで逢に物理的にもボコボコにされたって話なのにあれだけ強気なのは、やっぱり逢の立場を計算に入れての挑発なんだと思う。どうせ反撃なんてしてこないだろうし、してきたらしてきたてタレ込むとか、そんな打算で。やっぱり念の為ついて来て良かった。
とは言え、同級生の人達が止めに入ってるし、まだ様子見で。異性のおれがしゃしゃり出て仲を勘ぐられたりしたら、それこそ逢の立場的に良くないし、割り込むのは最終手段。




