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868回敬遠された月出里逢  作者: 夜半野椿
第四章 黄金時代
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第百五十九話 案外つまらないこと(2/?)

「さ、かかってらっしゃい」


 『まずは娘の成長ぶりを見てやる』と言わんばかりに、構えもせずただ突っ立って挑発してくるお母さん。お父さんには敵わなかったとは言え、れっきとした元プロ。半グレ連中が雇ってた元プロボクサー相手の時もかなり苦戦したし、油断するつもりは全くない。


「しッ……!?」


「よし、入った……!?」


 無防備な(ボディ)に一発入れたつもりだったのに、紙一重で躱された。


「チィッ……!」

「ウフフフフ……」


「あ、姉貴のマッハなラッシュが……」

「全然入らねェ……」


 パンチやキックを連続で繰り出してるのに、どれも同じように紙一重で躱される。まるで次にどこに打ち込むのか読まれてるみたいに。


「ハァ……ハァ……」

「打ち込み自体は悪くないけど、殺気の方向が見え見えねぇ。あんたもそれなりの場数を踏んだみたいだけど、自分と同じくらいかそれ以上のレベルの相手とはあんまり喧嘩したことがないみたいね」

「ッ……!」


 そういうところも、お母さんにとっては何もかもお見通しだった。


「よっと」

「!?」

「あら、今の防げるの?反応は良いわね」


「え……?」

「い、いつの間に後ろに……!?」

「全然見えなかった……」


 目の前にいたのに、ものすごいスピードで背後(バック)に回って、首筋を狙った手刀。どうにかガードが間に合ったけど、入ってたら多分一発で終わってた。


「まぁこんな感じで、その気になれば(あい)以外だったら一瞬で倒せる自信があるから、観客(ギャラリー)の子達は乱入しても無駄だと思ってね?」


((((どうすんだよこのバケモン……)))))


 約束を反故(ほご)にして他の人達がかかってくることも計算に入れられるくらいの余裕。この時点でも、お母さんとの力量差を痛感してた。


「らあッ……!?」

「ウフフフフ……狙いは悪くなかったわね……!」

「ッ……!!!」


 だからちょっと卑怯だけど、ほんの少し周りの人達に意識が向いた瞬間に打ち込んだパンチ。躱されずには済んだけどあっさり受け止められて、そのままパワーで強引にねじ伏せられる。

 ……悔しいけど、パワーもスピードもお母さんの方が上。


「だあああああッ!!!」

「あらあら、元気いっぱいね」


 だからこその、攻めの姿勢。受けに回ったらねじ伏せられるだけ。ピチピチの10代のスタミナなら、病み上がりのオバハンより分があるかもしれない。その可能性に賭けて、全力のラッシュ。さっきはお母さんへのダメージを考えてほんの少し加減してたところがあったけど、今度は本気。

 受けられたり躱されたりでなかなかまともに入らないけど、流石のお母さんでもこればっかりは紙一重で躱すような器用な芸当はできないみたいで、ほんの少し光明が見えたけど……


「……!!?」

「ほいっ」

「くッ……!!!」


 まるで地球がそのまま動いたみたいに、パンチを打ち込んだ瞬間に仰向けに倒されて、そこから(ボディ)へのパンチ。その場から転がってどうにか回避。


「ハァ……ハァ……」

「やるじゃないの、あたしに技を使わせるなんて。しかも受け身も取って、追撃も凌いだ。流石はあたしと(まさる)の子だわ。でももうぼちぼち限界みたいねぇ……」

「ッ……!!!」


 お母さんの推測通り、あたしはここまでで全力を出し切った。でも全然敵わなくて……


「「「「「…………」」」」」


「ぐっ……!」

「呆れたわねぇ……まだ立ち上がれるの?打たれ強さは(まさる)似ねぇ」


(あの姉貴が……)

(一方的にボコボコに……)

(バケモンすぎるだろ……)


 一応元プロにも勝ってそれなりに自信があったのに、限界までもがいても一発もまともに入らない。

 こんな時だけど、このお母さんがバリバリの頃でも敵わなかったお父さんの強さを間接的に思い知った。


「しょうがないわね。よっと」

「!!?」


 襟と袖を取ったお母さんにポンと投げられて……


「あだだだだだだだ!!!」

「ほらほら、降参しないの?」


 腕の関節をあっさり極められて。


「ぎ……降参(ギブ)降参(ギブ)!!」

「リーダーさん。この子タップもしてるし、あたしの勝ちで良いわよね?」

「う、ウッス……」

「約束も守ってくれるわよね?」

「もちろんっす……」

「ほい、お疲れ様」

「ハァ……ハァ……」

「す、月出里(すだち)さん!大丈夫ですか!?」

「姉貴!」

(わり)ィ……ちょ、ちょっと……大丈夫じゃない……」


 勝敗が決まってすぐに手を離してもらえたけど、正直、関節を極められる前から体力的にも限界だったから、そのまま起き上がることすらできずに寝そべってた。

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