第百五十八話 許される理由(5/?)
「ひっひっひ……アニキぃ、今日もしっかり捌いてきやしたぜェ……」
「バーカ、俺らはちゃんとした商売始めたんだぜェ?"オーナー"って呼べや」
「そうっすよねぇオーナー。俺らのやってることなんて言ってしまえばただの輸入業。仕入れたモンをさらに高値で卸す。古今東西どこでもやってること」
「まァ取り扱ってるモンが身体に害だが、その害のあるモンを実際に使うかどうかはお客様次第。俺らは右から左へ流すだけ。包丁で指を切ったからって包丁屋が責任を取る必要がないのと同じだよなァ」
「そうそう。ウチは芸能界の方々や政治家先生も御用達の真っ当な"企業"なンだ。胸張ってりゃ良いンだよ。キキキキ……」
「いざとなったらお得意様方が"警察"とかに『相談』してくれますよねェ?」
「全く、便利な世の中になってくれたモンだぜェ。学校でどんだけ危険なモンか教えても、逆張りでも何でも良いからインテリ気取りてェ奴がネットで薬物の有効性とかを拡散してくれるンだから、需要なんてどこにでもあらァ」
図書館で大樹さんが言ってた、晴香さんのお父さんからの頼み。まぁつまり、『この深谷にまた物騒な輩が入り込んできたからつまみ出せ』ってこと。ほんとどこからこんな情報を仕入れて来れるんだか……
「ドエレーーー"FOOOL"じゃん……?」
「「「「「!?」」」」」
「「「往生せェやクソども!」」」
「何じゃテメェらあああああ!!!」
「ションベンくせェ"子供"どもの出る幕じゃねーぞ!」
今回もあたしと大樹さん、それから赤穂さん達。前の外国人騒動の時と同じ、深谷学生連合の実働隊的なメンバー。
「ぐふぇ……」
「う……ぐぐ……」
「「「ひ、ひぃぃぃ……!」」」
「へっ、ションベンくせェぞ"大人"ども……」
「ッたく、歯応えねェなァ……」
「コイツらもどうせ普段から"服用"てるンだろ」
「伊丹、川西のダンナと"警察"に連絡入れたぞ」
「よし。コイツら全員縛ったなァ?さっさと"撤収"かるぞ」
「もう覆面外して良いか?」
「帰るまでが遠足っすよ、姉貴」
変なところで紳士な大樹さん達のお望み通り、あたしは変わらず、こういう時は顔を隠して。
「次のニュースです。昨夜、埼玉県深谷市で違法薬物を販売していたグループが逮捕されました。警察が現場に駆けつけると、グループのメンバーはなぜか全員負傷しており、手足が縛られた状態で発見され、通報した人物も不明とのことです。一方、SNS上ではここ最近、医療用大麻の解禁など、薬物規制の緩和を求める声が多く挙がっており……」
「いやぁ君達、今回も本当によくやってくれた!我らが帝国を薬物で穢さんとする愚か者どもをよくこらしめてくれた!!」
「どうも……」
例の『外国人排斥運動』の後も、こういうことは何回かあった。でも歯応えのある喧嘩をしたのはその一件くらい。クソな連中の中でもその一件で、『深谷で悪さをするのは割に合わない』ってなったのかもしれない。
「全く……共生社会だか何だか知らんが、そういう薄っぺらいグローバリズムのせいでああいう輩が入り込んできて……おっと失礼。とにかく、夏休みの最中だと言うのによくやってくれた。君達は我が国の誇りだ。一部の敗北主義者どもが終わりだとか何だとかでこの国の将来を嘆いているが、君達のような若者がいる限りこの国は安泰だ。謝礼とは別に、学校生活に支障をきたさぬよう私の方で便宜を図っておこう」
そしてそういうクソな連中の情報をあたし達に教えたり、あたし達の活躍を讃えるのはいつも晴香さんのお父さん。
先祖代々からの地元の顔役みたいな人で、まぁ言葉の端々からも察せられるように、この国が好きすぎて困った人でもある。そしてこの国を愛するあまり、法だけじゃなかなか裁けないクソが地元やこの国にいるのが許せない潔癖症で、そういう細かい汚れを落とすために子供も鉄砲玉のように利用する。あたしとはちょっと違った形の、"マイナスにマイナスを掛け合わせたような奴"。
「月出里くん、少し話があるんだが良いかね?」
「……何だ?」
「先のK人どもの一件と言い、君の実力とその活躍ぶりには特に目を見張るものがある。どうだろう?もし良ければ、中学卒業後は直接私の下で働かないかね?」
「……!」
「まぁ『働く』と言っても、望むなら普段はこれまで通り学生として青春を謳歌してくれても良い。高校・大学への進学も支援させてもらうし、これからも法や公的な組織から咎められることなくその腕前を存分に発揮できるよう、私の方で便宜を図ろう。もちろん、十分な報酬も用意する。君は必要な時だけ君の望むままに暴れてくれたらそれで良い」
「…………」
「……君のお父様は本当に素晴らしい格闘家だった。だが大衆は愚かにも君のお父様とその強さを道化のために利用した。今の時代、表舞台では"最強"とかそういう名誉は、結局は戦った結果ではなく、権力者の都合で決まってしまうもの。腕っぷしの強さは安易な金儲けの道具にされてしまうだけ。だが使い方を工夫すれば、裁けぬ悪を裁き、この国を、ひいてはこの国の人々をも守ることができる。万人からの賞賛を浴びることは決してないだろうが、その方がよっぽど有意義だと思わんかね?」
「……考えとく」
「良い返事を期待してるよ」
まぁ当時のあたしからしたら魅力的な誘いではあった。これからもずっと将来のこととか罪悪感とか考えることなく喧嘩し続けられるし。国がどうとかはともかく、地元にクソどもをのさばらせたり、そうすることで家族を危険に晒したりするのは嫌ってのは"ダンナ"と同意見だったし。ミッコさんとか大樹さんとか、周りの人達が将来やるべきことを次々と見つけてて正直焦ってたし。あたしがクッソ可愛いからって、その手の下心からじゃないってのも理解してた。
気安くお父さんのことを持ち出して、お父さんの夢を遠巻きに否定してこなければ、その場で首を縦に振ってたかもしれない。あたしの『許される理由』は"私兵"になってたかもしれない。




