第百五十八話 許される理由(4/?)
「すごい!すごいすごい!」
「そ、そうか……へへ……」
「うわ、ここ開いた!」
「「……!」」
あたしと晴香さんがリビングの方を見ると、はしゃぐ結と純、そして照れ笑う大樹さん。
「おねーちゃん、はるかさん!ひろきさんすごいよ!こんなおうち作っちゃった!」
「ほらここ!ドア開くんだよ!屋根取ると中に家具があって……」
手を止めて見に行くと、結が大樹さんの作品を手に持ってた。
一緒に遊ぶ結と純に遠慮したのか、使い勝手の良さそうなブロックはなるべく使わず、シンプルなブロックだけで組んでるけど、妙にギミックが充実してて作り込んでる。
「大樹さんってひょっとして大工さんとか!?」
「い、いや……ウチは両親揃ってフツーの"社畜"だぜェ?」
「大樹さん自身は?」
「俺はまだ"中学生"だ」
「ねーちゃんと同い年?」
「いや、1つ上だ。まぁつまり"受験生"って奴だな」
「勉強しなくて良いの?」
「へっ、"子供"が気にすることじゃねェよ。心配してくれてありがとな」
「ひろきさん!今度はロボット作って!」
「ロボットか……よし、任せな!」
最初はビビってた純と結もすっかり大樹さんと打ち解けてた。深谷学生連合で高校生もそれなりにいるのにリーダーやってるのは、単に身体がでかいからとか喧嘩の腕っぷしが強いからだけじゃないよね。
「……なぁ、晴香」
「ん?」
「こう……家建てたり家の建て方考える奴って、"大工"以外に何かあったよなァ?えっと……」
「……"建築家"?」
「!!そ、そうだ!それだ!!!」
「「???」」
「へへ……」
大樹さんはえらく上機嫌で、さっき自分で作った家を眺める。
「「「「「…………」」」」」
その時はお母さんがすぐに退院して、深谷学生連合の人達とまた集まれるようになった。正直パーッと盛り上がりたかったけど、復帰初日はまさかの地元の図書館。
(な、何だあの連中……)
(いかにもな不良集団が大人しく本を読んだり勉強したり……)
(シュールすぎる……)
(もしかして、ちょっとでも受験のストレスを発散するためにコスプレしてるとか……?)
(最近の学生さんは大変ねぇ……)
まぁ確かに家のことをやってたってことはそれだけ宿題も進んでなかったってことだし、中学組だけじゃなく高校組にも受験生がそれなりにいるから、悪くないっちゃ悪くないんだけど……
「…………」
言い出しっぺとは言え、あの大樹さんがやけに真剣に、しかも普通に難しそうな本を読んでる。
「よォ"逢。てめェは宿題か?」
「お、おう……どうしたんだよお前?やけに真面目に読書キメて……そんなキャラだったかよ?」
「……"結"と"純"にゃ礼を言わねェとな」
「え……?」
「俺ァ喧嘩とか人助けとか、そういうの以外で他人に褒められたことってほとンどなくてなァ……"父"も"母"も仕事仕事。うるせェ"祖父祖母"のお望み通り、"跡取"作る義務は果たしたって言わンばかりで、褒められるどころか叱られることもほとンどねェ。まぁおかげで好き勝手やれてるわけだし、晴香ンとこの"親父"が色々頼ンでくれるから、不良として一生喧嘩やれてりゃ良いって思ってたが……俺ァ"決定"たのさ。将来、"建築家"やるってなァ」
「……!」
「ちょれェもんだよなァ、俺って。"子供"にちょっと"玩具"の"家"褒められただけでその気になっちまって……でも不思議なもンだよな。てめェの言う通り、俺ァ本なんて読んだら数分で眠っちまうような奴なのに、『これをやる』って決めたらやけに文字も頭に入って」
「……このまま一般になるのかよ?」
「まァすぐにってわけじゃねェさ。ついこの前も"親父"から頼みごとされたし、この"徒党"は俺も気に入ってるからなァ。俺自身は高校出るまでは続けて、それまでに深谷学生連合の次の"番長"も"決定"たりしねェとなァ」
「…………」
「"逢"。また今度てめェの家行っても良いか?アイツらにゃ直接礼を言いてェ」
「ん……」
大樹さんはいくら喧嘩好きでも、根は誰しもが認める善人そのもの。あたしと同じように、きっと不良をやってることが楽しいって思う反面、負い目もあったんだと思う。本当は喧嘩とかそんなんじゃなく、もっと誰しもに誇れるような方法で生きたいって思ってたんだと思う。それもなるべく自分が得意なことで、ちゃんとお金にもなるようなことで。
……ものすごく自分勝手な話だけど、大樹さんのことをずるいなって思っちゃった。あたしに選びもしない『プロ野球選手』の選択肢を蘇らせておいて、大樹さんだけは自分が得意で将来お金にできそうなことを見つけられて。同じ"マイナスにマイナスを掛け合わせたような奴"なのに、大樹さんだけが『許される理由』を見つけて一抜けしたような気がして。
 




