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868回敬遠された月出里逢  作者: 夜半野椿
第四章 黄金時代
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第百五十八話 許される理由(1/?)

******視点:月出里逢(すだちあい)******


 校長に『外国人排斥運動』とか揶揄された例の騒動のすぐ後から夏休み。

 そんな時期の不良(ヤンキー)なんて遊び回ってると思うのが普通。実際、あの騒動の後も深谷学生連合(レンゴー)のみんなで毎日のように集まってた。

 でも、別に変わらず喧嘩ばかりに明け暮れてたってわけでもないし、それどころか……


「う〜ン、うう〜ン……叶恵(かなえ)さぁン、これどうやって解くンすかァ?」

「あー、これはちょっと問題がいじわるですねぇ。ええっと……」

「ってか晴香(はるか)は良いのかよ?せっかく叶恵さンが来てくれてるのに漫画ばっか読んでさァ……」

「もう終わらせた」

「クッソォ、優等生め……!」


 前に変な外国人から助けた叶恵さん、それから、晴香(はるか)さん始め特に仲良くしてた深谷第二中学(ダイニ)の女子。晴香さんの家に集まって、夏休みの宿題の消化。

 洲本叶恵(すもとかなえ)さんはあたしの3つ上で、当時は高2。襲われてたのも納得の清楚な人。あたし達に合わせて不良(それ)っぽい格好をしてるけど、ピアスとかそういうので親からもらった身体を傷つけるようなことは絶対しないタイプ。教員志望で人に勉強を教えられるくらい賢くて優しくて親切で、育ちの良さが隠しきれてない。


「ってかミッコ、逆にアンタどういう風の吹き回しよ?『みんなで宿題やろう』とかそんなこと言うキャラじゃなかったでしょ?」


 ミッコさんこと明石美都子(あかしみつこ)さんはモコモコとした茶色い癖っ毛で、あたしより小柄で、パッと見トイプードルみたいな人。お母さんと2人暮らしで、歳はあたしの1つ上。つまりはその年受験生だから勉強するのはおかしくなかったけど、短い付き合いでもミッコさんはそういうキャラじゃないとあたしも正直思ってた。


「いやァ、あっしさァ……実は看護師になろうと思ってね」

「「「「「……!」」」」」

「看護師なら今の時代でも食いっぱぐれることはねェし、将来母ちゃんの面倒だって見れる。学校も補助がかなり出るみたいだし、(あい)さンみたいに世の中のためにもなれるしな」


 後で詳しく聞いた話、ミッコさんはその頃くらいに初めて実のお父さんと会ったみたいなんだけど、まぁあんまりな人だったみたいで……ミッコさんのお母さんは水商売やってて普段から派手な格好してるから、母子家庭なのはお母さんが悪いんじゃないかって何となくずっと思い込んでて、それが不良になるきっかけだったらしいんだけど、実のお父さんと会ったことでミッコさんのお母さんが今までずっと本当に女手一つで頑張ってきたんだって理解して。


「素晴らしいです明石(あかし)さん!そういう話でしたらとことん協力しますよ!」

「あざっす!」

「……フン」

「あ、おいサチ……!」

「帰る」


 ずっとノートを開いてペンを回してたサチさんがさっさと帰り支度をして、部屋を出ていった。

 サチさん……市川紗千華(いちかわさちか)さんもあたしの1つ上の人で、背が高くて、すっぴんでも十分綺麗なはずなのに妙に化粧っ気が強い。ちょっと刈り込みの入ったショートヘアーで、まるでヴィジュアル系バンドみたいな雰囲気。見た目が威圧的なだけじゃなく、喧嘩も晴香さんと並ぶくらい強くて、深谷第二中学(ダイニ)の女子の中でも特に恐れられてた人。


市川(いちかわ)さん、どうしちゃったんでしょうか……?」

「まァアイツ、万年赤点どころか九九もできるか怪しいくらいのバカですからねェ……ん?」


 さっき部屋を出たはずのサチさんが扉からひょっこりと顔を見せて、あたしに視線を送る。


「逢さンも帰りませんか?」

「あ、いや……えっと……」


 サチさんは見た目通りクールでドライな人なんだけど、意外と寂しがり屋。


「……そうっすか」

「あ……」


 あたしが迷ってると、サチさんはいつものクールな表情にスッと戻って、改めて1人で帰っちゃった。


「え、えっと……月出里(すだち)さんは今どんな感じですか?」

「……こんな感じ」

「あー……」


 まるで空欄が埋まってないプリントを申し訳なさげに叶恵さんに見せる。

 サチさんがあたしに期待してたのは、単に深谷第二中学(ダイニ)の人達にえらく好かれてたってだけじゃなく、あたしも勉強で同類だと思われたからっぽい。実際その通りで、ただでさえ元々勉強はあんまりできなかった上に、グレてからは授業をサボりまくってたから、問題の答えどころか、何を答えとして求められてるのかも理解できないくらいの状態だった。


「だ、大丈夫ですよ!この夏でどうにか挽回しましょう!」

「良いよ、あたしは。ミッコ優先しなよ」

「……月出里さんって、普段学校の時間でも外を出歩いてるんですよね?」

「まぁ、そうだけど……」

「だったら尚更です」

「何でだよ?だったら尚更、こんな奴に構ってるくらいなら……」

「私はそんな月出里さんに救われたんですよ?」

「……!」

「私だけじゃありません。前の騒動で月出里さん達が頑張ってくれたから、深谷の人達が今日も何でもない毎日を送れてるんです。そんな私達だけが幸せになって、月出里さん達だけ将来がダメになったら、まるで私達が月出里さん達を犠牲にしたみたいじゃないですか?」

「…………」

「月出里さんは月出里さんのできる方法で私達を救ってくれたんですから、今度は私が私のできることで月出里さんの力になる番です」

「そうっすよ、逢さン。逢さンはあっしらと違ってまだ1年余裕があるんですし、一緒に頑張りましょうや」

「お、おう……」

「じゃあまずこの問題からですね」


 まぁ元々、将来やることを何かしら見つけて、高校は別のところに行くつもりだったしね。叶恵さんとミッコさんの圧に負けて、大人しくペンを走らせる。

 ……でも正直、その頃はまだ将来のことは全然考えられてなかった。

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