第百五十七話 居場所(2/?)
「おう、てめェが"真輻寺"の"月出里逢"って奴か」
「……誰だテメェ?」
そんなふうに1人で好き勝手やってたら、ある日ハンバーグみたいな髪型の男の人と、サラサラの黒髪の綺麗な女の人の2人組があたしの元にやってきた。
「"深谷第二中学"で"番長"やってる伊丹大樹ってもンだ。話は聞いてるぜ?"御曹司"とか"令嬢"ばっかの学校なのにやたら強ェ"女子"がいるってなァ」
「だから何だ?」
「そりゃあ決まってンだろ?構えろや"月出里逢"。"深谷"の"中学生"の"最強"を"決定"させようぜェ……」
「そこの女も?」
「コイツは単なる"立会人"だ。"最強"決めるンなら"一対一"に決まってンだろ?」
「……上等」
まるで自営業の人が少しずつ信頼を重ねて顧客が増えるような感じで、喧嘩を重ねてるうちに『喧嘩しても良い理由』を自分で探さなくても向こうからやってくることが増えた。
「……?"木刀"は使わねェのか?」
「タイマンで素手の相手にンなダセェことできるかよ」
「……"粋"じゃねェか。テメェみてェな筋通す奴は好きだぜェ」
木刀は本当に念の為の備え。れっきとした勝負なら使うわけにはいかない。別に今更"良い子ちゃん"でいたかったわけじゃなく、単にプライドの問題。
「う……ぐぐ……」
大樹さんは言うだけのことはあって、それまで喧嘩した中じゃ大人も含めて一番強かった。まぁ返り討ちにしたけど。
「この辺にしときな。流石のアンタでも無理だよこんなバケモン」
「お、おう……」
頑張って立ち上がろうとしてた大樹さんを止めて、膝枕する黒髪の女の人。
「……こんな強ェ"女子"がこの世にいるたァな」
「文句あっか?」
「いや、"興奮"たぜ……この俺が一発かすらせるのが精一杯なんてなァ……」
髪型とイカつい表情で気付かなかったけど、普通に笑うと意外とハンサムな顔立ち。
「"月出里逢"、俺らの"番長"にならねェか?」
「……あんた何年?」
「ピチピチの3年だ。てめェは?」
「もっとピチピチの2年。だから断る」
「ウチは"年功序列"はナシだ」
「っていうか別の中学だろうが」
「……こンな時間に1人でほっつき歩いて、しかもそンだけ強ェンじゃ居場所がねェンじゃねェか?あンな金持ちだらけンとこじゃなァ」
「…………」
「てめェみてェな一本筋の通った強ェ奴なら、ウチはいつでも歓迎するぜ?」
「!!フン……」
「アンタ、あんまりしつこいと嫌われるよ?今日は悪いね、ウチのバカに付き合わせちゃって」
「あんたは?」
「川西晴香。コイツとは腐れ縁でね。コイツしつこいからまた絡んでくるかもしれないけど、そん時は殺さない程度に適当にあしらってくれたら良いからね」
そう言って、ボロボロの大樹さんを担いで帰っていく晴香さん。大樹さん結構大柄なのに、あの人もなかなかパワフルな人。あの頃からあの2人はお似合いだった。
「…………」
『てめェみてェな一本筋の通った強ェ奴なら、ウチはいつでも歓迎するぜ?』
……よく考えたら、赤の他人に『可愛い上に』とか『可愛いのに』とか抜きで、あたしの中身だけを認めてもらえたのは生まれて初めてだったかもしれない。筋を通して、男とか女とか歳とかも関係ないってスタンスの大樹さんは、最初に会った時から強く印象に残った。
「あ……ああ……」
「ぐひひwwwほんと可愛いなぁ純くん……」
「蛇連さんいなくなっちまったけど、むしろ好都合ってなぁ……!」
「何寄り道してんだ純?」
「!!?ねーちゃ……」
あのクソ野郎とつるんでた連中。あれだけボコボコにしても、やっぱり懲りない奴はいたけど……
「ぐっ……うう……」
「げふっ!……うう……」
「この変態野郎どもが。そんなにサカりてぇんだったらあの蛇連のケツでも追っかけてろや」
「ね、ねーちゃん、もうやめなよ……死んじゃう……」
「……純。また何かあったらあたしに言いなよ?」
「う、うん……」
『家族を守る』ってのを言い訳に、何度もぶり返すあのクソ野郎への苛立ちをぶつけ続けた。




