第十七話 我儘の資格(2/4)
9回裏 紅5-5白 2アウト満塁
○白組
[先発]
1二 徳田火織[右左]
2中 有川理世[右左]
3右 松村桐生[左左]
4一 天野千尋[右右]
5三 リリィ・オクスプリング[右両]
6捕 冬島幸貴[右右]
7指 伊達郁雄[右右]
8左 秋崎佳子[右右]
9遊 月出里逢[右右]
投 雨田司記[右右](残り投球回:1/3)
[控え]
夏樹神楽[左左]](残り投球回:1回2/3)
氷室篤斗[右右](残り投球回:0)
山口恵人[左左]](残り投球回:0)
●紅組
[先発]
1中 赤猫閑[右左]
2遊 相沢涼[右右]
3右 森本勝治[右左]
4左 金剛丁一[左左]
5一 グレッグ[右右]
6指 イースター[右左]
7二 ■■■■[右右]
8三 ■■■■[右右]
9捕 土生和真[右右]
投 カリウス[右右]
[降板]
三波水面[右右]
早乙女千代里[左左]
桜井鞠[右右]
相模畔[右左]
牛山克幸[右右]
花城綾香[左左]
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******視点:三条菫子******
ふぅん……そうしてくれるのね。まぁ個人的にはそっちの方が嬉しいわよ。
「おいィ!何で今の振るんだよ!?」
「今の振らなかったら勝ってただろ!!?」
「何で振るんだよテメェ!!!」
予想外すぎる展開でしばらく静まり返ってたギャラリーだったけど、その反動が働いたかのように騒がしくなった。そうよね。普通はこっちが正解。私だって立場的にはこっちにつくべきだし。
それにね、月出里逢。そっちを選んだ以上、それだけじゃ満足はできても正解にはならないわよ?こっちと同じ……いえ、それ以上の結果にならなきゃいけないのよ?貴方はそのことを理解した上でそっちを選択したのよね?これ以上を期待しても良いのよね?
(た、助かった……NOKA?)
(偶然か故意かは計りかねるが……何にしても命拾いしたのは事実。あれが故意だと言うのならボール球で攻めるのが最善策だが、何故あんなことをしたのか意味がわからんし、何よりも次に見逃されたら敗北確定。あまりにもリスキーすぎる。二番手捕手以下の俺の立場から言っても、明確な戦犯になるような選択はどうしてもできん……)
土生が構えたのはアウトロー。やっぱりそうするわよね。
(どんな動機があろうとも、月出里が今日ノーヒットで、打てる気配もないのは純然たる事実。冒険する必要はない。インハイの後のアウトロー。初志貫徹、セオリー通りでいくぞ!)
……ってなことを考えてるんでしょうね。カリウスも素直に首を縦に振ってる。確かにそれが無難な選択。だけど、それはきっとあの子が望んでるものでもある。
(!!ッ……!今度はせめて低めに……!!)
またしても逆球……だけど、このコースは……!
(……くそッ!)
あの子は始動した……いや、始動しなくてはならなかった。何せ逆球ではあるけど、何の運命の悪戯か、これはおそらくインローいっぱいに入ってしまう球。球審によっちゃ逆球をストライクとして取らない奴もいるけど、それでも振らないという選択はどのみちあり得なかった。
「……おおッ!!!」
予想通りインローいっぱいに入ってきた速球を、あの子は捉えた。いつも通りバットが折れたけど、それでも前には飛んだ。
「いや、だが……」
(へっ、これはおそらく右翼(俺)の定位置……!)
そう、膝下の速球なのにわざわざご丁寧にライト方向の飛球にした。ほんと、期待させてくれる子だわ。
(……ん!?ちょっ……ちょっと待て、この打球、まだ伸びるのかよ……!!?)
「おおっ、何か思ったより伸びてるぞ!?」
「これ、もしかして……!」
「入れ!」
「入れッ!!」
「入れェェェェェッッッッッ!!!!!」
角度のありすぎる打球で、しかもバットが折れたにもかかわらず、予想以上に伸びる打球をライトの森本は慌てて追っていく。白組ベンチはこうなるともはやスタンドに届く以外に勝ち筋がないと悟り、フラフラと飛び続ける打球に追い風でも与えるように叫び続けてる。
「……アウト!!!」
だけど、赤猫の時みたいな偶然なんて都合良くまた起こるはずもなく、打球はフェンス際で森本のグローブの中に降りていった。
「「「「「「「「「「「「「……………………」」」」」」」」」」」」」
一縷の望みに賭けて全力疾走してたあの子も、流石にそのコールを聞いては諦めざるを得ず。
「ゲームセットッッッ!!!!!」
「ご覧頂きました一戦は、5-5で紅組の勝利となりました。本日のご観戦、誠にありがとうございました」
そのコールも、ウグイス嬢が中立的に淡々と述べる事実も、白組メンバーの耳にはおそらく届いてないけど、届ける必要なんてない。その事実に打ちひしがれてるのだからね。
「流石は紅組やで!一軍半以下どもに格の違いを見せつけてやったわ!!」
「ワイは信じとったで!」
「あーあ、あんなとこでスイングせんかったらなぁ……」
「頭空っぽすぎやろ(笑)」
「あんな顔だけの小娘に将来を賭けてる内は、バニーズは万年最下位のままやろなぁ……」
「育成ならまだしも本指名で取るようなレベルじゃねぇよなぁ」
「それに徳田のクッソつまらんエラーに貧弱下位打線とか、まぁ負けるべくして負けたわな」
確かに反省すべき部分は多い。だけど、想定よりも遥かに実りがあったことも事実。それでもマイナスな部分ばかり切り取られていく。残念だけど、これはもう敗者の責務としか言いようがないわね。
『オーナーはご存知だと思いますけど、今日あたしスタメンで出るんです!一日でも早くオーナーのご期待に応えてみせますから、お忙しい中だと思いますが、最後まで応援お願いします!』
だけどそれでも、私は嬉しかったわよ。
「ヴォーパルくん……いえ、優輝。貴方は月出里逢のこと、どう思った?」
試合が終わって観客の目がないことを確認して、着ぐるみの頭を外し、その素顔を見せる。
「……うん、面白い子だね」
親戚の贔屓目や謙遜を抜きにしても、同い年の男とは思えないくらい綺麗な顔立ち。私より少しペールなピンクの髪を手で整える優輝にドリンクを差し出した。
「それなら良かったわ。今すぐにじゃないけど、貴方の力も頼りにさせてもらうから」




