第百五十三話 仁王牡丹(1/?)
******視点:卯花優輝******
12月16日、埼玉県深谷市。つまりは逢の故郷。
引っ越した逢の実家に来るのはこれで3回目。最初は今年の春季キャンプ前。2回目は夏頃、逢のスランプ脱出のためにゲームを取りに行った時。3回目にもなれば駅からどう進めば良いかもわかる。
「…………」
去年の帰省の道中もおれの実家のせいで逢の表情はずっと強張ってたけど、今年も結果としてそうなってしまってる。何でも今回は中学の同窓会に出るとかって話で……
「つ、着いたよ!」
「うん……」
揃って玄関に向かう。引越し前と比べて外装はずいぶん綺麗になった逢の実家。でも今回の家もサ■エさんハウスみたいな間取り。玄関も当然の如く引き戸。
「お邪魔します……」
「あ、お姉ちゃんに優輝さん!」
「久しぶり、結ちゃん」
「お久しぶりです。さ、上がってください」
山のように盛られた洗濯カゴを平気で抱えながらおれ達をリビングまで案内する結ちゃん。光樹のSPを返り討ちにした一件といい、やっぱり逢の妹なんだなぁって思わずにはいられない。
「ニー!」
「あ、タマも久しぶり」
ソファに座ると、タマがおれの膝下に。猫を堂々と家の中で飼えるようになって、家具も猫の引っ掻き傷以外は目立たない新品ばかり。
「あら、いらっしゃい」
「あ、お母さん。今日仕事は?」
「ちょっと体調が悪くてねぇ……」
リビングに入ってきた牡丹さん。いつもは常に笑みを浮かべてて、余裕と覇気を感じさせる人なのに、今日は何だか珍しく弱々しい姿。
「お久しぶりです。あの、大丈夫ですか?ちょっと顔色が……」
「ああ、うん。大丈夫よ。たまにこうなっちゃうだけで……」
「お母さん!ちゃんと部屋で寝てなきゃ!お水とか必要だったらあたしが運ぶから!」
「ごめんなさいねぇ……」
洗濯物を干し終えた結ちゃんに促されてリビングから出ていく牡丹さん。
「逢、その……」
「うん。お母さん、ああ見えて結構身体が弱いんだよね。あたしが中学くらいの頃と比べたらだいぶマシになったんだけど」
「そうなんだ……」
おれが光樹のとこに行って助けに来てくれた時は逢以上に大暴れしてたのに……
まぁでも、ちょっと納得できたかもしれない。あの逢以上に強くて、実際にプロの格闘家もやってたっていう牡丹さん。一応武道の経験もあるおれが全然名前を聞いたことがなかったのって、もしかしてそういうことなのかなって。
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夜。結ちゃんが作ってくれた夕飯をみんなで食べた後。
「ふぅ……」
ダイニングで風呂上がりの水分補給。いくら広くなったとはいえ、風呂は順番に。今は逢と結ちゃんが一緒に入ってる。
「良い飲みっぷりねぇ」
「牡丹さん……」
ダイニングのテーブル。おれと向かい合わせになるように牡丹さんも席に着く。
「昼間はごめんなさいねぇ。せっかくお婿さんが来てくれたのに、ロクに歓迎できなくて」
「い、いえ……もう大丈夫なんですか?」
「ええ。おかげさまですっかり。明日は普通に仕事行けそうだわ」
別に強がってる感じでもない。おれもよく知ってるいつもの牡丹さん。40代前半らしいけど、『逢と姉妹』って言われても全く違和感のない見た目で、へたり込んでた背筋も今はピンと伸びてる。
「……今日ここに来るまでの間、逢はどんな感じだった?」
「え……?あ、はい。何かずっと思い詰めてたような感じで、あんまり会話もなかったですね」
「やっぱりね。ごめんなさいねぇ、無愛想な子で」
「いえ、まぁそういうとこがあるってのは理解してるつもりですから……やっぱり同窓会のことなんですかね?」
「でしょうね。貴方ももしかしたらもう知ってるかもしれないけど、あの子中学の頃にちょっとヤンチャやってたからねぇ」
「あ、はい。詳しいことは聞いてないですけど……」
「……元を辿ればあたし達……いや、あたしのせいなのよ」
「え……?」
牡丹さんが冷蔵庫の方に向かって、ウイスキーとグラス、氷と炭酸水入りのペットボトルを取り出す。台所でササっとハイボールを作って、席に戻る。
「逢のことだからきっと長風呂だし、ちょっとオバサンの晩酌に付き合ってもらっても良いかしら?」
「あ、はい……」
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