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868回敬遠された月出里逢  作者: 夜半野椿
第四章 黄金時代
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第百五十一話 戦いはもう始まっている(6/?)

 感謝祭もそろそろ終盤。今やってる企画はチャリティーオークション的なもの。


「それでは次のお宝です!先ほどの『三条(さんじょう)新喜劇』で山口(やまぐち)選手が着てたアイドル衣装でーす!」


 今日のすみちゃんは『絶対に優勝』っていうプレッシャーから解放されたからか、妙にテンションが高い。『新喜劇』辺りからずっと司会進行をそのまま続けてる。


「ほうほう……」

「なるほど、これは……」


「何でさっきの女子選手のより食いつきが良いんですかねぇ……?(困惑)」


 某鑑定団番組みたいに、今シーズンの試合の印象的な場面で使われてたバットやボールとか、あとこういうのとかを鑑定家に(ふん)した球団スタッフの人達が最低価格を設定して、後日公式サイトでオークションをやって売りに出す、っていうもの。もちろん基本はチャリティーオークションだから、売上は全部慈善団体に寄付する。

 ただどうも、価格は元々すみちゃんが事前に設定して、スタッフの人達は自分達が鑑定してるような(てい)でやってるっぽい。


「それでは、こちらのお宝のお値段はー?いち、じゅう、ひゃく、せん、まん……はい、3万円となりましたー!」


「おいィ!?何であっしのより倍以上も(たけ)ーんだよ!!?」

「か、神楽(かぐら)ちゃん落ち着いて!」

「全くだよ!どういうことだよ!?」

「いや、恵人(けいと)のこういう扱い、いつものことじゃないっすか」


「「「「「ハハハハハ!!!」」」」」


 こんな感じで選手達のトークやリアクションもリアルタイムで入るから、鑑定中の時間もファンを退屈させない仕組み。


「それでは次のお宝です!今回の企画の目玉の1つ!帝国シリーズ2021第1戦、雨田(あまた)選手が最終回を3者連続奪三振で締め括った際のウイニングボールです!」


「「「「「おおおおおおお!!!」」」」」

「マジで!?」

「そんなん出すのかよ!!?」


「おいおい、良いのか雨田……?」

「構わないよ。来年は絶対に帝国一だろ?あのボールを後生大事にしてたら今年の結果で満足してしまいそうな気がするからあえて出そうと思ったんだ」


「雨田選手、素晴らしい決意ですね!オーナーとして身の引き締まる思いです!」


「ええぞメガネ!」

「いよっ!太っ腹!」

「来年こそ帝国一や!」


 まぁでも良い企画ではあるよね。こうやって今年の色んなシーンを振り返ることができるし、来年に向けての思いなんかを表明したりもできる。


「それでは、こちらのお宝のお値段はー?いち、じゅう、ひゃく、せん、まん……じゅうまん……!?50万円!50万円が出ました!本日の最高額がここで出ました!」


「うーん、まぁバニーズにとって25年ぶりの大舞台やったしなぁ」

「三条体制の帝シリ初勝利やし、後々もっと高なってもおかしないな」


「次が本日最後のお宝となります!最後は球史にも多大な影響を与えたであろうすごいお宝です!」


「え?何や何や?」

「えらいハードル上げてくるな菫子(すみれこ)たそ……」


 基本的にこの企画で出品する物は、あたし達選手は事前に把握してない。確実にわかるのは自分が出品しても良いと提出した物だけ。もちろん提出するかどうかは任意だけど、あたしもまぁすっかりこういう立場だから、ペナントレースのとある試合でサヨナラヒットを打った時のバットを1本出してもう鑑定済み。流石に雨田くんほどすごい物は出してない。ホームラン関係の物はできるだけ大事に取っておきたいし。








「最後のお宝は、今年の4月6日のアルバトロス戦で月出里選手が踏み忘れた、例のサードベースです!!!」


「「「「「!!!??」」」」」


「ぶっっっ!!?」


 マジで……!!?


「ちょっとすみちゃ……オーナー、どういうこと!?何でそんなの残してたの!!?」

「月出里選手、これ踏んでたら六冠王でトリプルスリーだったんですよ?後世に語り継がれるレベルのやらかしなんだし、取っておくに決まってるじゃないですか?」

「残さなくて良いよそんなの!今すぐ燃えるゴミにでも出してよ!」

「あ、(あい)ちゃん!落ち着いて!」

「せやで月出里!あんなおもろいこと滅多にないんやから、未来の子供達にも語り継ぐべきやで!」

「おもろくねぇわ!何でもかんでも笑いに繋げんじゃねぇよ関西人ども!」


「「「「「あははははは!!!」」」」」


 観客には大ウケだけど、あたしにとっては教訓でもあるけど、はっきり言ってアレは黒歴史そのもの。


「真贋鑑定のため、こちらのサードベースにはこの後裏に月出里選手のサインを書いてもらう予定でーす!それでは、こちらのお宝のお値段はー?いち、じゅう、ひゃく、せん、まん……じゅうまん……ひゃくまん!?出ました250万円!最後の最後でとんでもないお宝が出ました!!」

「何やってんだよお前ら!?そんなくたびれたベース1個にそんだけの金出すバカがいるわけねぇだろ!!?」


「いやぁ、普通に需要あるんちゃう……?」

「ちょうちょ自身の価値も考えたらなぁ」

「アレ一応プロ初アーチになるはずやったしな」

「ちょうちょこのままメジャーでも活躍したら幾重(いくえ)みたいに記念ボールとかそういうのクッソ高騰しそうやんなぁ」

「そう考えたら借金してでも買っておく価値がある気がしてきたな」


「ボクのウイニングボールはあんなのの5分の1程度なのか……」

「ハハハ!ドンマイドンマイ雨田!!」


「ぷぷぷ……で、では月出里選手、出品前にこの場でサインをお願いします……ぷふっ!」

「はい……」


 まぁ結局、あたしはすみちゃんには逆らえないんだけどね……


(あい)

「?」


 すみちゃんがわざわざマイクのスイッチを切って、サインを書いてるあたしに近づく。


「こうやってネタにすれば、もう責められることはないでしょ?」

「すみちゃん……」


 あの踏み忘れで下手したら優勝を逃してた可能性もあった。これはすみちゃんがあたしを守るための配慮。それはわかる。

 でも……


「でもぶっちゃけ、あたしをいじって楽しんでもいるでしょ?」

「うん。クッソ愉快」


 こんにゃろう……


「まぁ貴女の言う通り、こんなくたびれたベースを最低250万で売りつけるなんて今のところ詐欺もいいとこだし、私の望み通りの"史上最強のスラッガー"になって、これの価値をしっかり高めることね。にひひひひ……」


 ……"史上最強のスラッガー"になるのは簡単なことじゃない。今までだって練習が辛かったり、なかなか結果が出なくて苦しい時もあった。でも今日ほどその夢を叶えたくなくなった日はない……ちくしょう。


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