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868回敬遠された月出里逢  作者: 夜半野椿
第一章 フィノム
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第零話 ロード・オブ・■ン■■■リ■■

 野球における最良の打撃結果はホームランではあるものの、ホームランだけを狙うのが最良の打撃とは限らない。しかし、少なくとも日米プロ野球の歴史の節目には、常にホームランがあった。


 今よりさらに儒教的価値観が強かったかつての日本。スポーツによって金銭を得ること自体が卑しいとされ、プロ野球選手が今ほど英雄視されていなかった時代。そんな時代であっても、帝の御前で試合を行う機会が設けられた。

 当時1959年。相対するは、リーグ・コンサバーのジェネラルズとパンサーズ。両チームは互いに自らの威信を賭け、奮闘した。その結果、同点のまま最終回を迎えた。


「4番サード月島(つきしま)。背番号3」


 9回の裏、ジェネラルズ側の先頭打者は、プロ2年目の月島英雄(つきしまひでお)。そしてマウンドに立つのはパンサーズのルーキー日暮咲(ひぐらしさき)

 スケジュールの都合上、帝が間も無く退席というタイミングで月島が放ったのは、レフト方向へのサヨナラホームラン。

 大学時代から既にスターとして認識され、プロ1年目の時点で既に「ルーキーにしては」という枕詞一切抜きで傑出した成績を残していた月島であったが、このホームランは月島の名声をより高め、ひいてはプロ野球そのものへの評価が一変する大きなきっかけともなった。

 そして日暮もまたこの対決をきっかけに月島を最大の好敵手と認識し、幾度にもわたる月島との対決を経て大投手となった。

 おりしも戦後不況を乗り越えた高度成長期。刺激を求めた大衆は月島の活躍と日暮との宿命の対決に色めきたった。月島に対し死球はおろかビーンボールすら1球も投げずひたすら真っ向勝負を挑む日暮と、それに応える月島という構図は、ジェネラルズとパンサーズの関係をそのまま形成するような形となり、その結果、この二球団が特に大きな人気を得ることとなった。

 やがてプロ野球選手という職業は男女問わず子供達の将来の夢の典型例となり、また、成功者の代名詞にさえ昇華された。


 それぞれの時代の子供達が夢を叶え続けることでプロ野球は歴史を積み重ねることができ、遂に時は2024年。


「3番サード月出里(すだち)。背番号25」


 そのアナウンスに観客が沸き立つ。ユニフォームの青紫の対となる彼女のオレンジの髪は遠くから観戦するファンの目にも入りやすいが、彼女はネクストバッターズサークルで素振り一つせず、ただ黙して相手投手を眺めているだけだった。アナウンスを合図にヘルメットを被り、歓声を背負ってゆっくりとだがまっすぐに右打席へと向かった。球場を囲む池でボートに乗る人々も、ラジオなどで彼女の打順が回ってきたことを知り、準備を始める。

 ほんの数年前まで"最弱球団"のレッテルを貼られていたバニーズにその頃の面影はすでになく、球場のライトスタンドは青紫に染まり、大部分の観客が彼女の名を記したタオルを広げていた。その名は、バニーズをリーグ・プログレッサーの王者たらしめた王者の名。バーニング打線の中核を担う最強打者の名。


 この年の日本球界の両リーグにおいて、選手単位でもチーム単位でも数々の前代未聞の大記録が生まれた。それらの主な原因となったのは、バニーズの天才スラッガー月出里逢(すだちあい)と、シャークスの怪物エース妃房蜜溜(きぼうみつる)

 傑出した実力、ポジション、1学年差、そして何より互いを好敵手として認め合っている点など、様々な点で半世紀以上前の月島と日暮に重なる両者は、既に"現役最強"と広く認知されていたが、この年、両者共に"史上最強"と立証し得る『奇跡』を引き起こした。


 この『奇跡』に繋がる軌跡もまた、月出里逢(すだちあい)ととある少女との出会いと、たった1本のホームランがなければきっと存在し得なかったであろう。

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