第十話 流水
俺たちはなんとかEP回復手段を得ることができた。
そして風の精霊に挑む準備ができたのだが、
「このまま風の精霊に挑みたい人ー?」
「それをお前が聞くのか、モーバ?」
「俺は行ってもいいと思うが、みんなはどうかなって意識調査だよ。リーダーだからって傲慢に何でもかんでも決めてたら不和が起こる」
【リーダーらしいこと言うじゃん】
【本音は?】
「ちょっと俺の能力がパワーアップしたところで役に立つか疑問でな。だったらサポート技能寄りの水の契り重ねた方がまだ有益かと思ったんだ」
「|◉〻◉)僕はどっちでもいいでーす」
魚類には聞いてない。つーか食事しながら移動すんのはマナー違反だぞ?
配信中だと言うことを忘れちゃいないか?
「リリー殿、何を飲んでおられるのでござるか?」
「|ー〻ー)これはですね、熱に耐性がアップするお茶なのです。火の精霊と契ろうとも、魚類にとって熱は天敵! なのでこうやって耐性の上がるお茶を飲むことで鱗の周りにヌルヌルとした膜を張るのです」
「キモいでござるな」
「|◎〻◎)キモいって言われた!」
【やたら滑ってる理由それなんだ?】
【お茶にそんな成分あったっけ?】
「|◉〻◉)これは青いドリンクの改良版です。アキエさんが作ってくれました。やっさしー」
【そういえばあの人もクトゥルフ様引いたんだっけ?】
【夫婦揃って魚類の親分引くあたり似たもの夫婦なんだよな】
【唯一の常識枠だと思ってたのにー】
コメント欄は魚類に任せつつ、意識調査を他のメンバーに訪ねていく。
「僕は風に一票」
「私は、そうだな……音を取ってみてもいいと思う。精霊の扱う術に無駄はないと感じている。そもそもハーフビーストを選んだ時点で直感を大切にしているからな」
「俺はもう一丁地で、といきたい所だが風でも構わんぜ? 俺の大砲がどれくらい通用するかを試したい」
「パスカルは?」
「俺もどっちでも構わん。リーダーの決定に従うまで」
「拙者もモーバ殿の指示に従うでござるよー?」
魚類との会話を早々に打ち切って、村正がとてとてと歩いてきて腹にタックル(微)を仕掛けてくる。
風に1票、音に1票。
残りは俺の指示に従うと言うことで、俺たちは水の精霊のいる場所に歩みを寄せた。
「おい、道はこっちであってるのかパスカル?」
「合ってるぞ。ただいつもの通り近道だ。ほれ、最初の難関のお出ましだ」
そこはマグマが流れる川の上に、浮き沈みする足場が見て取れる。
おいおい、なんて配信映えする場所を選んで来るんだ。
最高だぜ、パスカル! こいつは俺が配信に求めるなんたるかを全てわかってくれる。
誘って良かったと思える一番のダークホースだ。
【地下ルートアトラクション多すぎ問題】
【超!エキサイティン!】
【火耐性上げてないと死ぬやつwww】
【上げただろう?】
【これ落下もあり得るぞ?】
【浮き沈みするタイミングが早すぎるんよ】
【昔こんな番組があったらしいな?】
「よーし、いつもの冷凍ビーム頼むぜ?」
「合点、冷凍ビーム! ファイア」
【冷凍なのに燃やすな】
【掛け声定期】
【フリーズだとかぶるだろ?】
【凍てつけ凍れ、フリーズ!!!】
【被ってる被ってる】
「|◉〻◉)被ってると何か問題あるんですか?」
魚類が口の中から中身のアイドルフェイスをのぞかせながら聞いてくる。まさに被ってる典型だ。
【うわぉ! 不意打ちすんな!】
【カメラ目線やめれ】
【こいつ、どんどん容赦なくなってるな】
【リリーちゃん、ブレない】
「|◉〻◉)僕のメインスキルは宴会芸全振りですからね。見事な自爆技をご覧入れましょう」
【なんでこの子自信満々でそんなこと言えるんだ?】
【絶対パーティに入れたくない人選】
【魚だぞ?】
【魚選?】
「|◉〻◉)鮮魚!」
【変顔やめれ】
【芸に生きてるなー】
脇でコントやってる魚類を放っておいて、俺たちは近道を裏技で切り抜けた。
「なぁパスカル」
「どうした、リーダー」
「どう見てもこいつ上位種じゃね?」
目の前には玉座に鎮座しこちらを見下ろす流水の精霊がいた。
どう見ても初回に出会った水の精霊より格上だとでわかる。
「そうだが、それがどうした?」
そうだが、じゃねーんだよな。
つまりあれだ。上位種の手前には大体アトラクションが待ち構えてる感じなのだろう。普通にで良かったんだが……
契りを3まで上げられるのは3つまで。
5は2つ、8は一つ。
今ここで三つ決めるのは芳しくない。
まだ音も風も手に入れてない状態だ。
じゃあ俺は手に入れて他はキャンセルするか?
攻略には全ての契りを8~9に上げてる必要があると聞く。
俺は水を上げるつもりだが、オメガキャノンは地、陸ルートは風、ジャスミンは音、パスカルと村正は火を取りたいはずだ。
「とりまここまで来たし行くか。俺はこいつで三つ目のあげる枠を決めるつもりだが、他の契りを上げたい奴は今回の戦闘への参加をキャンセルしたほうがいいかもな?」
「キャンセル?」
「ジャスミンは音、陸ルートは風を上げときたいだろう?」
「あったら便利程度にはな」
「僕も、ビーム兵器を封じられたら詰みますので風は上げておきたい所です。じゃあ、水精霊戦は参加しない方が良さげですか?」
「その分リリーに働いてもらうさ。地と火を上げたいやつはついてこい。リリー、仕事の時間だぞー、お前の得意な水フィールドだ。働きを期待してるぜ!」
「|◉〻◉)がんばるます!」
こうして人数を削ってのバトルが始まった。
最初の三つを決定するまではこうした人数制限が強いられるのは少しいただけないがな。
なんせ、戦闘勝利後は勝手に契りが結ばれるからだ。
地下世界において精霊打倒がどれほど崇高な儀式かわからんが、選択肢の類は出てこない。決め打ちでかかるしかないのだ。
戦闘は文字通り魚類の独壇場だった。
受けてよし、攻めてよし。
遊びすぎる傾向にあるが、それがこちらの体制立て直しに一役買ってくれた。
「|◉〻◉)そーれそれそれそれ! 見てますか、僕の槍捌き!」
【リリーちゃん、こんな強かったの?】
【アキカゼさんと一緒にいるから目立たないだけで、他のメンツも大概だからな?】
【全ての注目を掻っ攫うからな、あの人】
「ナイス時間稼ぎだリリー、オメガキャノン!」
「冷凍ビーム!」
「氷作製も持っていけ!」
リリーが動きを止めて、オメガキャノンが流水精霊の操る水ごと氷漬けにする。補助として氷作製のスキルを乗せるパスカル。
見事氷のオブジェが出来上がる。
そこへ駆けつけ、脳天唐竹割りをお見舞いする村正。
物理無効の可能性も見越してビームソードでの攻撃だ。
「斬!!!!!!!」
ブゥウン、と氷を透過させたビーム照射は中の精霊をそのまま熱処理するのに十分な威力を見せた。
精霊戦は一切の耐久ゲージが見えないので勝利したかがわからないクソ仕様。
見た目で判断するしかないので本当に地の契りは欠かせないものだった。
「よーし畳みかけろ! 相手の攻撃は俺が逸らす」
【ようやくモーバが司令塔として動き始めたな】
【実際精霊の攻撃を見極めたのもこいつだし】
【それ以外一切役立たず定期】
【言ってやるな、正直当初物理的に燃えてただけの奴らだぞ?】
【草】
【そういえばそうだったwww】
「|◉〻◉)ちょいさー!」
締めはリリーの腰の入った槍での攻撃だった。
こいつ、いつもラストアタック持っていくな。
こうして俺とオメガキャノン、パスカル、村正は地、水、火の契りを3まで進めた。
EPの上限も90%だ。
増えた分、すぐに回復はしないが、上限が増えたことによる回復のパーセンテージは上昇してるのか、以前より随分と早く回復してるように思えた。