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清姫異聞  作者: 四月朔日
4/10

逃避行

幸か不幸か、清姫の不幸な事故、の話は真砂を離れた茶屋まではまだ届いていない。

ただ、茶屋ごとに残した足跡を猟犬が辿るかのごとく、真砂の若衆は着実に安珍の背後に迫っていた。

安珍が日高川を渡る頃、真砂の若衆は安珍を発見した。

清姫の通夜から2日後の、夕方のことだった。

短いようだが、真砂の衆には長い長い時間だった。

すぐにリーダ格の青年に安珍発見の旨が知らされ、青年は先行部隊に伝令を発した。

捕らえよと。しかし、殺すなと。

安珍の安否を気遣っての言葉では無い。ただ、自分が青年の目の前に立つまで、死なれるわけにはいかなかった。

会ってからどうしたいか、それはまだ分からなかったがとにかく会ってからだ。

この2日でどす黒い感情は青年の胸の中で発芽し、心の奥底まで根を生やしていた。


ちょうど安珍が日高川を渡し船に乗って渡りきろうとしていた時、真砂の若衆が数名が川に飛び来んだ。

昨日、川の上流で夕立があったらしく川の水嵩はかなり増している。流れも速い。

しかし、若衆は怯まなかった。

鬼気迫る表情をしており、刀を口に咥えて迫り来る姿は、それだけで十分に恐ろしかった。


安珍は最初何が起きているのか分からなかった。

人が3人、川に飛び込んだのが見えた。こちらに向かって泳いでいる。

刀を口に咥え、目が爛々と光っている。

ただ事で無い事だけはすぐに分かった。

『あれは何だ?野盗?しかし、このあたりは安全なはずだ。ではあれはいったい何だ?』

体を恐怖で強ばらせたまま、泳いでくる3人から目が離せないでいた。

ただ、幸いにも渡し船は川を渡りきるところだった。

安珍は急いで船を降りると、転がるように走り出した。

遠く背中の方から「待てぇ、安珍」という声が聞こえた気がした・・・。


『追っている?この俺を?』


ますます訳が分からなくなった。

どうやらただの野盗では無いらしい。安珍を捜しているようだ。しかし相手は刀を持っている。

捕まったらどうなるか、考えただけで怖い。

このまま街道沿いを走って良いのか?

もし相手がどこかで馬を手に入れたら・・・追いつかれる?

とにかく身の安全を確保するのが先決、そう考えた安珍は街道からそれ獣道を用心深く進むことにした。


一方、安珍を追いかけていた3人の真砂衆は、岸に上がったときに既に安珍の姿を見失っていた。

しかし、捜していた人間を見つけた事で最初の目的は果たしていた。ここで慌てても仕方がない。 一人を後続への報告に残し、残り2人で追跡行を行うことにする。

もし馬が手にはいるようなら何としても手に入れて追いかける、と冷静に判断を下す余裕もあった。

幸か不幸か、馬なら茶屋ですぐに手に入った。

売って貰うことは出来なかったが、1日借りる事で話がまとまり1人が馬で先行することになった。

安珍が獣道に入ることを決めた、その少し後の事だった。


安珍は獣道を慎重に、しかし街道から大きく外れることなく並行に進むように心がけた。

木の枝であちこち擦りむいたが、痛くはなかった。刀を持った人間に追われるという人生初の出来事に遭遇し、痛みを感じる余裕がなかったのだ。

しばらく進んでいくと街道側から馬の走る音が聞こえて来た。

用心深く木々の間から街道の方を見てみると、どうやら先の男の一人らしい・・・。

もしそのまま街道を進んでいたら、今頃見つかっていたはずだ。

獣道を進む自分の判断を賢明さを喜ぶ以前に、諦めずに追ってくる存在がただ怖かった。

安珍は恐怖のあまり、しばらくは何も考える事が出来ず、その場に固まったまま動くことが出来なかった。


一方馬で先行した真砂の衆の一人は、しばらく走った後徒歩で追ってくるもう一人の元に戻っていった。

とうに追いついているはずの距離を走っても姿が見えない。追ってくるのに気付いてどこかに隠れたのかもしれない。

時刻はもうすぐ日暮れを迎える。当てもなく捜すのは困難だ。

2人はそこで一度後続が追いつくのを待って、リーダである青年の指示を仰ぐことにした。

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