気持ちのゴミ箱
空気がキーンと凍るような寒さの朝だけど、僕の心は浮き足立っていて、体は緊張でポカポカしている。今日は2年の想いを募らせた奈津ちゃんとのデートだからだ。昨日は今日起きられるかが心配過ぎて全然寝られなかったから若干瞳孔が開き気味である。
瞳孔開き気味で心臓バクバクいってる僕ってもしかして不審者かな?奈津ちゃんに引かれないかな?
不安になる気持ちを押さえつけ、音楽を聞きながら電車に乗り込む。今流してるプレイリストは奈津ちゃんのことを思って作ったもので、好きな気持ちが大きくなる。
会いたい、早く会いたい。
急かす僕の気持ちなど知らん顔で電車はガタンゴトンゆっくり進む。僕の気持ちは電車を追い越して奈津ちゃんにもう会いに行っているのに。
ガタンゴトン、ガタンゴトン。一向にスピードが速くならない電車に諦めのため息を一つつき、音楽に心を向ける。
この歌、僕の奈津ちゃんへの気持ちを歌ってるみたいで奈津ちゃんを想いながら何回も歌ったなぁ。この歌も。この歌も。
今日は奈津ちゃんに告白するつもりでいるから、何度も一緒に自分の気持ちを歌った歌たちに勇気をもらう。臆病な僕が、大好きでたまらない彼女に、好きを伝えられるように。
奈津ちゃんとの待ち合わせ場所を確認して、ドキドキしながら彼女の姿を探す。まだ来ていないようだ。
待ち合わせ時間まではあと30分。いつもなら時間を潰す場所を探すけれど、今日ばかりはここを離れたくない。奈津ちゃんがいつ来てもいいように周囲に目を光らせつつ、今日する予定の告白に想像をめぐらせる。
帰り際に?水族館にいる時に?それとも会った時に?何回も何日も悩んで、全く決められないでいる。どうしようかな。どうしよう。
もんもんと悩んでいると、奈津ちゃんが歩いてくるのが見えた。
今日も可愛い。「今日も好きだ。」
「え?」
奈津ちゃんの驚く顔も可愛い。いやでも待て。僕今何て言った?好きって言ったな。
「えっと、あのその、違くて。いや、告白自体は今日する予定だったから間違いじゃないんだけど。でもその、もっと違う感じでする予定で……。」
しどろもどろになりながら弁明する僕に向かって奈津ちゃんが言葉をくれる。
「ごめん、森山くんのことそういう目で見たことなくて……。」
僕の大好きな気持ちに対して好きな子がくれた言葉は、鋭くとがったナイフみたいに僕の心に刺さった。
「あー、そっか!何か、僕こそごめんね」
「ううん。好きになってくれてありがとう」
「水族館どうする?行く?」
「うーん、やめておこうかな」
じゃあね、ばいばい。
困ったような顔で笑う彼女は可愛かったけど、僕はさっきみたいにそれに浮かれることは出来なかった。
好きなのに。
まだ、好きなのに。
あれが彼女との最後の会話かもしれない。放心した僕は、帰るために電車に乗った。
ガタンゴトン、ガタンゴトン。行きと同じスピードで電車は走る。行きのワクワクとは全く正反対の気持ちを抱えた僕を乗せて、変わらず走る。
『めちゃくちゃ好きな人に振られた………………
つらすぎる…………。
この気持ちはどこ持ってけばいいんだろう。
気持ちのゴミ箱とかあったらいいのに……。』
気持ちが溢れてSNSに投稿した。
その日はたぶん何もしないで寝た。
続きも考えてあるけど書き上げられるかわからなくて短編にしてあります。
感想、ブクマ頂けると糧になります。
ほぼ処女作です。よろしくお願いします。