コメントピラニア
コメントが欲しくて仕方がない。
誰か僕の、私の表現を見て。
社会の釣り堀でひっきりなしに戯けたように響く悲惨で醜悪なデザイア。
愛に乾いたピラニアたちが横倒れたビッグマンションの水面から息を吸う。空気にすらも噛み付くように飛び上がって、飛び上がったピラニアにピラニアが噛み付く。
共食いは連鎖して、食われたピラニアは次々チェレンコフ光のように青く輝いて空に消えていく。
チリチリチリチリ消えていく。
「なんて浅ましいのかしらね」
付け髭をつけた白袴の女は三脚椅子に座って、ピラニアの荒れ狂う波の中に釣り針をおろしている。
「コメントピラニア、承認されたくてもがく哀れな生物」
釣竿をブンブンと振り回して憐れんでるんだか、笑ってるんだか、分からない声を女はあげた。
「定時の時は夜空が美しい時だな。多くのピラニアが魚座になるんじゃ」
女の隣の男も釣り針を100と8つ垂らして待つが、そっちは静かにぶら下がったままどのピラニアにも見向きもされない。
台風のように踊る釣り針と白鳥のように固まる釣り針。
空に飛び上がって星を釣る。
「燃えながら星になる流星群。いくつもの炎上がこうやって星を彩るんじゃ」
「愛があればこうもならなかったのに。いや、そんなの鶏が先か卵が先かっていう話になりかねないわね」
「最初から寂しかったやつが少なからずいたって言うことじゃろ。さ、そろそろ釣れるぞ」
「あなたは釣れないわよ。私のピラニアも星になっちゃうから意味なんてないんだけど」
「わしらが釣るのは星を見るためか」
「そう。私たちが釣るのは愉悦だからよ」
女と男は釣り針を真逆の文化圏のような踊り方をさせる。
水槽のように横倒れたマンションの中から魚人が出てくる。産声をあげて、地に足つけて、這い上がってくる。
「ウォォォン!」
泣いている。星を見て、数々の争いを見て、自身の身も骨もピラニアには食い荒らされてるけども、醜い醜い魚人が綺麗な涙を流すのは醜い社会のせいだ。
何かのせいだ。
「綺麗だけど、やっぱり醜い」
「進化をしても余地が残れば醜いものだ。人は変わり続ける生き物だ。だからこそ、完成しないことの裏付けをもされてしまった悲しい生き物でもある」
女と男は釣竿を置いて倒れたビル山を登っていく。
山脈のように重なり合ったブラック企業の倒産ビルを駆け上って朝日を待とうとするのです。
新しい朝日は赤いか、青いか。
それとも、ただただ明るいのか。