命懸けの戦闘でさもえ仲間の一人が真の実力を隠していたから仲間の安全を第一にパーティーから抜けてもらった~後から実力を出してももう全部終わったんで手遅れ〜
魔王討伐のためにこれまで仲間達と共に苦楽を乗り越えてきた。
どんな困難も苦難も彼らとなら乗り越えられる。僕は信じていたんだ。
だけど魔王城に近づくに連れて魔王軍の精鋭部隊との戦闘がより一層激しさを増していく。
戦士のガレオスさん、僕の腐れ縁で魔術師のミオス、僧侶のリン……そして魔剣士のフィン。
フィンは驚くべきことに今日まで真の実力を隠していたんだ。
今回の戦闘は本当に危なかった。フィンが電光石火の如く早技で魔王軍を倒してくれなかったら……。どうなっていたことか。
少なくとも僕達は無事では済まない。だから僕達はフィンに感謝もしてる。
僕は蝋燭の灯火が暗がりの寝室を照らす中、魔剣士のフィンに、
「どうして今まで実力を隠していたの? 先日の戦闘でガレオスさんとリンが負傷したのは君も間近で見ていたはず……どうしてその時に、今日の様な実力を出さなかったのか、出せない理由があるの?」
彼が真の実力を隠す訳を聴いた。
何か実力を発揮できない理由があるんじゃないか。そう考えて尋ねたら、
「そりゃあ、直前で隠された実力を発揮した方がカッコいいからに決まってるだろ」
呆れた答えで返された。
そんな理由で今まで実力を隠していたのか。
「そんな理由で? ……そんな理由でガレオスさんとリンが負傷する所を黙って見ていたのか!?」
腹の底から込み上げる怒りに叫ぶと、彼は心底心外そうに肩を竦めていた。
「待ってくれよ。あの二人の怪我を俺の責任にするのはお門違いだ」
確かにそうかもしれない、戦いの負傷は自己責任だ。
だけどあの時は、僕とミオスはガレオスさんとリン、そしてフィンから距離が離れていた。
危ない! と駆け出した時にはもう手遅れで、ガレオスさんは右眼を失い、リンは左腕の神経をやられてしまった。
フィンは助けられる距離に居て、彼の剣が届くのに動かなかった。
「二人の怪我は決して軽いものなんかじゃない。それなのに彼らは……あの傷で戦っていたんだぞ!」
「だから俺を責めるなよ! アイツらが弱かったか結果だ! あの怪我は自己責任だろ!?」
このままフィンが実力を発揮するのを期待して共に歩むか。
それはダメだ。僕もみんなもフィンを信じていたのに。それなのに。
「……君はこの先、本気で戦ってくれるのか?」
僕は彼に最後の質問を問うた。
「はぁ? いつどのタイミングで力を振ろうと勝手だろ」
彼の言い分は別に間違ってはいない。力の使い方なんて一人それぞれだ。
僕もそれを強制はしないけど仲間の安全を、フィンの実力を発揮されることに期待して、傷付いていく仲間のことを考えると──もうフィンとは行動できない。
僕だって、本気で戦わない人に背中を安心して預けられない。
これは僕の我儘でもあり、自己満足という最低な行為だ。
「……君ならきっと一人でもやって行ける。だから僕達とはお別れだ」
フィンの別れの言葉を告げると、彼は言葉が理解できなかったのか困惑を浮かべていた。
その時だった。寝室にみんなが失望を浮かべて入って来たのは。
「クルト……悪いが話は全部聴かせて貰ったぞ。確かにこの怪我はテメェの自己責任だ。……けどな、仲間を見捨てるようなヤツとはやっていけねぇ」
「本当にフィンは鬼人のような強さだったわ。でも、ごめんなさい……真面目にやらない人には背中を預けられないわ」
「……フィン、残念だよ。お前の魔剣士としての素質は素晴らしいと思っていたのに……」
彼らは口々にフィンをつけ離した。
「おいおい、何だよこれ……まるで俺が悪者じゃないか。大体テメェらだけで魔王を倒せるなんて本気で考えているのか!?」
怒鳴るフィンにミオスが冷たい眼差しを向ける。
「本気だと!? 本気に決まっているだろう!! お前と違って俺達は平和のために必死に戦ってんだよ!」
ミオスの言葉に、フィンはつまらなさそうに荷物を持って部屋を出て行った。
「……明日も早いからもう寝よう」
僕の決断が正しかったのかは分からない。
フィンと別れてから数日後、僕達は何とか魔王を倒すことができた。
彼は心底楽しそうに笑い、国王様との和睦を申し出たのだった。
国王様はこれ以上の戦争を無意味だと判断して、魔王の和睦を受け入れ平和が訪れたんだ。
平和が訪れた以上勇者の任を解かれた僕は、仲間達と共に冒険者として改めてパーティーを再結成することにした。
丁度その時だった。追い出されたフィンが、真の実力を遺憾無く発揮して名を挙げ僕達の前に女連れで現れたのは。
「俺の実力と功績に名声が必要なんじゃないか? 今ならコイツらと一緒に雇われてやっても良いぜ」
彼は、何というか相変わらずそうで逆に安心したけどね。
「悪いけど君とはパーティーを組めないよ。それに僕達なんかよりも君には相応しい居場所が有るでしょ」
彼の両隣に立つ可憐な少女達。誰の目から見てもフィンに惚れている事がよく分かる少女達だ。
フィンの居場所は此処じゃない。それに今更になって実力を発揮されてももう遅いんだよ。
何せ冒険者の仕事は前人未踏の土地の調査なんだからさ。
こうして僕達は騒ぐフィンを背に新たな旅に出るのだった。