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美郷の話

三か月以上もあいてしまいました…! 申し訳ございません。

久々の投稿、よろしくお願いします。

 夕食の真っ最中、停電した。


 マンションの部屋には美郷と恋人の隼人、二人きり。偶然休みの日が重なって、久しぶりに一緒にいられるとおうちデートを楽しんでいたのだ。二人で夕食を食べ始めた直後、突然プツッと目の前から映像が消えてしまった。

 驚くくらいの真っ暗闇だ。スマホがあれば懐中電灯代わりに使えるだろうが、美郷は食事中だからとそばに置いていなかった。


「え、やだ停電? ちょっと怖いかも」


 周囲は暗くて何も見えない。夜になって遮光カーテンも閉めていたので、月明かりすら期待できない。まったくの暗闇だ。

 美郷は暗闇が苦手だった。何も見えない闇は自分のいる場所すら不確かで、すぐ後ろに誰かがいてもわからなくて怖い。夜寝る時もフロアスタンドをつけたままじゃないと眠れない。

 どんどん不安になってテーブルの向かいに座っている筈の彼を呼ぶ。


「隼人、ねえ隼人! ちゃんといる?」

「いるよ」


 彼の声と同時にぱっと光が見えた。隼人が自分のスマホをオンにしたのだ。眩しいくらいの光源はテーブルの上を照らし出し、隼人の姿がはっきりと見える。

 こんなわずかな光でもこれだけほっとする。スマホの光を頼りに隼人がゆっくりと席を立ち美郷の横に来て、抱き寄せられてさらに安堵した。


「すぐ復旧するよ、大丈夫大丈夫」

「そうかもしれないけど、怖いものは怖いのよ」

「美郷、暗いの苦手だもんな。心配すんな。ちゃんと傍にいるから」


 抱き寄せてくれた彼の顔が近づいて、美郷は薄く目を閉じた。口づけは今食べていたサラダのドレッシングの味がする。

 それと同時に隼人のスマホが自動的に消灯して再び暗闇が訪れる。けれど今度は隼人にくっついているから怖くない。その上こんな暗い場所で唇を重ねるのはどこか秘密っぽくてドキドキする。

 キスを交わしながら美郷は薄く目を開けた。

 けれどスマホが消灯してしまった後の部屋は相変わらずの真っ暗闇で、すぐ目の前にいる隼人の顔もよく見えない。


 ふと、思ってしまった。


 ――顔が見えないと、本当に隼人なのかなって思っちゃう――


 今、自分を抱きしめているのは確かに隼人のはずなのに、目を開けても暗くて顔が見えないと一瞬「本当に隼人なんだろうか」という不安を覚えさせられる。なのにこんなにキスが気持ちいい。なんて背徳的な気分にさせられるんだろう。


「美郷――」


 キスの合間に彼の声が低く甘く美郷を呼ぶ。確かに隼人の声だ。ほっとして返事をする前にまた唇を塞がれる。


 けれど秘密の時間は唐突に終わりを告げる。停電が復旧したのだ。

 途端にあたりは光に包まれ、何の変りもない日常の風景が浮かび上がる。テーブルの上に置かれたままの料理は口コミで聞いて買いに行ったカレー専門店『ナルセ』からテイクアウトしてきたもの、それにビールとサラダ。まだサラダをつまみにビールを飲み始めたところだったので、食べかけのサラダとまっさらなカレーがそこにある。隼人が座っていた椅子はテーブルに戻されることなく位置を乱されたままで、何となく生々しい。

 二人は顔を見合わせて笑った。


「なんか変な気分だった」

「俺も」


 ひとしきり笑った後、今度は明るい部屋の中で、今度は美郷から触れるだけのキスをした。

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