6 大量
ひんやりとした森の空気に肌寒さを感じながら進む。
人が踏みしめてできた道に魔除けは施されておらず、いつ魔物が襲ってきてもおかしくない、緊張感のある道中だ。
まぁ、その魔物を倒しに来たので、襲ってきてくれないと困るけどね。
「どうやら、こちらの様子をうかがっているようだ。そろそろ襲ってくるだろうから、準備して。」
「え、どこ?」
「さぁ、どこだろうな。僕は手を出さないから、すべてエリーシャが対処するんだ。大丈夫、エリーシャなら倒せる。」
「え、もう私が倒すの?お手本は見せてくれないの?」
ハルナードは何かを教えるとき必ず手本を見せてくれる。だから、今回もまずはハルナードがスライムを倒して、それから私が倒すという順番だと思ったのだ。
「生物相手は初めてだから不安だろうけど、僕が投げる的を斬れるエリーシャなら大丈夫だから、まずやってみて。まずは、魔物がどんな動きをするか見て、どう斬ればいいのか考えるんだ。」
「わかった。」
私が頷いたその時、木の影から何かが飛んできた。私はそちらの方をうかがいながら身をそらして飛んできたものをよける。
ボール?
飛んできたのは、バスケットボールのようなものだ。ただ、色は燃えるような赤で、表面がうねうねと動いて柔らかそうなものだった。
「スライム(赤)だ。」
「え、そのかっこ赤って何!?」
「集中しろ、来るぞ!」
「え、うん!」
3歩ほど離れた場所でうねうねとしているスライム(赤)を睨みつける。目や口といったものが見当たらないので、こちらを見ているのかどうかはわからない。
「そっちじゃない!後ろだ!」
「え、後ろ!?」
私に向かって飛んできたスライム(赤)を見ていたらハルナードに叱られた。言う通りに後ろを振り返ると、何かが3つ飛んできた。
ここで私はやっと剣を抜いて、振る。グシャと、水分の多い何かを斬ったような感触が2つ。私の胸のあたりと脇腹のあたりに飛んできたスライムを切り捨てる。最後は頭に飛んできたスライムだが、斬るのが間に合わないのでバックステップで回避した。
ぐしゃっ。
何かを右足で踏み抜いた。
「ひぃっ!」
気持ちが悪い感触に思わず悲鳴がもれて、右足を確認した。履いているブーツに、血のような真っ赤な何かがこびりついている。どろりとしたそれは、血というよりは血肉という表現が適切なようで、グロい。
「何これ!」
「スライムだ。最初に飛んできたスライムを、エリーシャが足でつぶしたんだ。ほら、どんどん来るから、休んでいる暇ないぞ。」
「は?」
ハルナードの視線をたどってみれば、私の方へと飛んでくるスライムが5匹。慌てて剣を振り上げて1匹斬り、上半身を狙っていた4匹は姿勢を低くして避けた。
ドンと背中を押されてふらつき、体勢を立て直しながらその場を離れる。
ぐしゃっ。
「ひぃぃぃ!」
左足が何かを、いや、どうせスライムだろう、踏みつぶした。そして、そのまま足を滑らして地面に尻もちをつく。
ぐしゃっ。
「うわぁぁあああ!」
お尻がスライムを踏みつぶしたようだ。生暖かくて気持ちが悪い。ぞわりと鳥肌が立つがそんなことにかまってはいられない。私は転がってこちらに襲い掛かるスライムをよける。
ぐしゃっ。
腹に生暖かいものが・・・もういい!
「はぁああああ!」
立ち上がる。次々と襲い掛かるスライムを斬る。足を踏み出して斬り続ける。
ぐしゃっ。ぐしゃしゃっ。
こちらは特に意識していないが、足でもスライムを踏みつぶす。
数は多いが、一振りかひとつぶしで倒せる弱い魔物だ。体力が続けば問題の相手だと判断して少し落ち着く。
まずは動きを見ろと言われたが、今まで特に見ることなく襲い掛かってくるスライムを倒しているだけだ。余裕ができたので動きを見ることにする。
こちらに飛び掛かってくるスライムは、木陰からくる。そして、私が避けると地面に着地して、しばらくすると再び私に向かって飛んでくる。それの繰り返しだ。
地面にいる間は、のそのそとカタツムリのようにゆっくり動くだけで、特に飛び跳ねたりはしない。
木陰からはいまだにスライムが襲い掛かってくるし、地面にいるのを踏みつぶしながら襲い掛かってくるのを対処しよう。
どうせもうブーツは汚れている。好きなだけ踏みつぶそう。
そして、10分後、スライム(赤)を一通り倒した私は、真っ赤の血濡れ姿になっていた。
「最悪・・・」
「お疲れ様。問題なさそうだな。」
「いや、この姿見てよ。」
「それは仕方がないことだから、諦めろ。」
ポンと肩に置かれた手は、スライム片の一つも付いていない綺麗な手で、来た時のまま綺麗なハルナードに少しイラっと来たとしても仕方がないと思う。
私は衝動のまま抱き着いた。汚れろ!