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5 スライム



 旅を始めて1か月が経った。町や村をいくつも周って、時には野宿も経験した私たちは、遂に目的地である始まりの町に到着した。


「着いたな。ここは始まりの町だ。」

「始まりの町?」

 変わった名前だが、何か理由があるのだろうか?


「この周囲には弱い魔物しかいないから、ここでエリーシャに実戦経験を積んでもらいたいと思ってきたんだ。」

「へー、初耳・・・ちなみに、ここで実戦経験を積んだら、次はどこにいくの?」

「ここでは、対魔物の実践をして、それが終わったら対人間だ。道中に盗賊でも現れればよかったけど、ここまで一度も遭遇せずに来たからな。こちらから探しに行くしかない。」

「・・・魔物はともかく、盗賊はわざわざ殺さなくてもいいんじゃない?」

 人間を殺すのは、やはり抵抗があった。それもわざわざ殺す相手を探しに行くというところに、強く抵抗がある。

 旅の途中で盗賊と出会ったのなら、斬るのにためらいはない。ためらえばこちらが被害を被るのは理解しているので、全力で殺す。


「先の話は今やるべきことを終えてからにしよう。とりあえずこの町で宿をとって、今日は休もう。魔物がいる場所はこの町からそう遠くない場所にある森だから、明日はそこで魔物を倒すぞ。」

「どんな魔物が出るの?」

「スライムだ。剣でなくても、その辺に落ちている木の棒で数回叩けば倒せるような弱い魔物だ。何も心配することはないよ。」

「ふーん。どんな攻撃をしてくるの?魔法を使う?」

「いや、全く。ほとんど攻撃という攻撃をしてこない。体当たりをしてくるが、大きさが小動物程度だから、大したダメージにはならない。だからこの町に来たんだよ。」

 話を聞くと、そのような弱い魔物・・・スライムだけが出る森は、この始まりの町の近くの始まりの森だけで、普通は強い魔物が3匹は生息しているらしい。ただ、森の奥にいることが多いのでめったに姿は見ないそうだ。


 でも、細心の注意を払うなら、やはり始まりの森がいいだろう。スライムしかいないのだから。


「繰り返しになるが、森や山など自然ばかりで人が住んでいない場所は、よく調べて準備を万全にして入れ。だいたいそういうところには主と呼ばれる魔物がいて、めったに出会うことはないが出会った場合勝てると確信が持てないのなら、入らない方がいい。」

「どうしても入りたいときは?」

「その主を倒せる実力のある護衛を雇うべきだが、あまりお勧めはしない。本当にその実力があるかもわからないし、あったとしても勝負は時の運に左右されることもある。劣勢になって、護衛対象を置いて逃げる護衛もいると聞くし、最後に頼れるのは自分だけだからな。」

「ハルは、あまり私にそういう場所に行って欲しくない?」

「・・・わざわざ危険の中に飛び込む必要はないからな。僕がエリーシャに剣を教えるのは、万が一の時の護身用ってだけだから。でも、もっと剣を磨きたいのなら、僕が師匠から教えられたことをすべて教えるよ。」

「師匠・・・ハルの師匠って、どんな人?」

「そうだな・・・とっても心配性で、普通なら免許皆伝の実力までいった僕に、毎日稽古をつけてくれたいい人だよ。死ぬときになって、もっと稽古しておけばよかったでは遅いからって、限界を超えて稽古させられたな。」

 ハルナードに似ていると思ったが、限界を超えてまでハルナードは私に剣を教えないので、そこはよかったと息をつく。もしかしたら、剣を磨きたいと言えばそのようなメニューが待っているのかもしれないが・・・


「僕はもうくたくたなのに師匠は元気で、おいしいご飯を作ってくれてさ・・・それを食べた後は死んだように眠って、朝にはたたき起こされる。目覚めにはいつもみそ汁の匂いがつきもので・・・懐かしいな。」

 目を細めて話し出すハルナード。普段あまり見ない表情で、ハルナードにも私にとってのハルナードのような存在がいたのだと知った。


「会ってみたいな・・・」

「なら会いに行こうか。スライムを倒すことができたら、次は僕の師匠に会いに行こう。ここからそう遠くないところに住んでいるからすぐに会えるよ。」

「うん。師匠とずいぶん離れて暮らしていたんだね?免許皆伝してもらえたの?」

「・・・それはまだかな。「もう教えることはないって」言われてないからな。あ、戻ったら何言われるかわからないな・・・やっぱやめよう。」

「え、やめるの!?」

「あぁ。エリーシャがいるのに、稽古漬けの日々になったら一緒に旅を続けなくなるからな。嫌だろ?」

「それは確かに嫌だけど・・・でも、師匠に会いたくないの?」

「・・・懐かしいとは感じるけど、別に会いたいわけではないからな。面倒だし、いいよ。そうだ、エリーシャは何か見たいものとかない?この町の次は、どこにいくか決めていないんだ。盗賊はどこにでもいるし・・・目的地に合わせて盗賊も探すから気にしなくていいよ。」

「盗賊のこと、忘れてなかったんだね。」

「もちろん。まぁ、とりあえず盗賊のことはいったんエリーシャは忘れて、どこか行きたい場所がないか考えてみてよ。海が見たいとか、勇者の剣が見たいとか、何か食べたいとかある?」

「・・・?あれ、今変なの混じってなかった?海・・・勇者の剣?勇者の剣って何?」

「興味があるみたいだから、次はそこかな。勇者の剣の話も、スライムを倒した後に聞かせてあげるよ。」

「・・・どうしてもスライムを倒して欲しいみたいだね。」

「あぁ。だって、スライムが倒せなかったら、ここで旅を終えて引き返すからな。魔物を倒せないなら、町に引きこもって生活する方が絶対に良いよ。」

「引き返すってことは、あの町に帰るの?家は確か売ったんだよね、どこに住むの?」

「また買えばいいし、別にあの町ってわけじゃない。いくつかの町に泊まっただろ?あの中で好きな町を選んで暮らせばいいよ。」

 買えばいいというが、そんなに簡単に家をポンポン買えるものなのだろうか?

 家を売ったお金があるとしても、売ったお金より買うお金の方が多く必要だろう。よくよく考えてみれば、町に住んでいた時のハルナードは職についている様子がなかった。それなのに、贅沢とは言わないが、不自由のない暮らしをしていたのはなぜだろう?


「ま、いいか。」

 疑問には思ったが深くは考えず、明日のスライム討伐のことについて考えることにした。




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