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コア  作者: 亜鶴間時間暁
7/10

コア 7



それはなんの前ぶれもなく突然に訪れた。

目が覚めたのだ。


しかし自分は確かにあのとき死んだはず。

いや、あのとき…いつのことだ?

どのくらいたったのだろうか?

とにかく自分はもうこの世のものではない、はずだった。

(なぜ…)

自分の手があるはずの部分を見てみる、が、なにもない。

(身体がない)

あるいは身体「は」ないと言ったほうが良いのか。

どうやら精神だけの存在として、また舞い戻ってしまったようだ。

周りを見渡してみる。見知らぬ世界が広がっている。

(見える…聞こえる…)

とうに忘れた感覚を呼びさます。これが視覚、聴覚…

ところで

私は誰なのか?

なぜここにいるのか?

そんなこと

(あの頃もわからなかった…気がする)

ふと地面に視線を向けると、朽ち果てた刀が転がっていた。

ほとんど原型をとどめていないそれがなぜだ刀だと分かったのか。

(ああ…私は…)

自然と刀に手を伸ばす。あるはずのない手が刀を掴む。

(まだ私にやれというのか)



「ずっと探してきた」

剣士はベンチに腰掛けたまま高地悠斗コウチユウトに話しかけた。

悠斗はほとんど剣士に背を向けていて、その表情はみえない。

「私がまたこの世に戻ったということは、奴らも…君も見たあの鬼たちも、復活している可能性があったのは確かだ。しかしそれより」

剣士は自分の手を見つめた。

「私は完全に戻りたかった」

悠斗は少しだけ剣士に視線を向けた。

「私にとってガンは体を復活させるための「核」の候補の一つにすぎない。雁が初めてじゃない。核があれば身体を、仮にでも再生させることができると気がついてからは、いろいろなモノで試してきた。そして今は、最も都合の良い彼を「核」として利用しているだけだ。私自身が完全に復活するためなら、木でも犬でも、雁でも、君でも、なんでもいいんだよ」

「あんた…」

悠斗が小さな声でつぶやいた。

「君は死んだことあるか?」

「…は?」

剣士は真面目な顔をして続けた。

「死ぬことは…消えることは、鬼と対峙するよりずっと怖い」

鬼を一瞬で倒してみせた剣士が「こわい」と発言したことを、悠斗は受け止められなかった。

「遅かれ早かれ皆いずれ死ぬ。君もだ。君も死は避けられない。私は一度死んだ。そしてまた、なぜかよみがえってしまった。こんな中途半端な形で。だけどもう戻りたくない。消えたくない。それだけだ」

悠斗は剣士を見つめた。

「…生き残って、ちゃんと復活できたとして、どうするんだ」

「それだけだ」

「え…?」

ベンチから立ち上がり刀を持ち直しながら剣士は言った。

「私には、完全復活はともかく「人間を支配しよう」などという願望はない」

「ただ、生きたいだけ…?」

「ああ」

剣士の目は冷ややかだった。

「どうなってもいいのか、あの…鬼が暴れても」

「何か問題が起きているか?」

確かに今のところ鬼の存在は公にはなっていないように思われた。鬼をみたと騒ぐ人も、襲われたという人もいなかった。でも現に悠斗は鬼を見たし、襲われそうになった。他の人がそうなるとも限らない。

「あんたはあいつらを倒すためによみがえったんじゃないのか…?そのために雁を使ってるんじゃないのか…?」

「違う」

そう言い切った剣士を、悠斗は唖然として見つめた。

「君は私を…選ばれた戦士か何かと勘違いしているようだが、違う。私はただ、再び死ぬのを怖がっているだけだ」

悠斗はなにも言えなかった。

「…私がそうだったように、鬼たちも「完全に」は復活していない。日に日に「気配」も弱まってきている。そうなれば私が戦う必要もない。戦わない剣士はなんだ。ただの人だ。私はただの人として静かに生きていくだけだ。なにも「特別」ではない」


「それでも君は私に「選ばれたい」か?」

剣士の言葉が悠斗の頭にこだました。


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